29.昇進予定祝い
「後輩君大出世だね、ユーリ課長もおめでとうごさいます」
「ありがとうー、アンナちゃんも開発部にこない?」
「私はミスト課長のとこに残りますよー」
「ふふっ、お給金上げても来ないかな?」
「ぐぬぬ……それは……」
会議の次の日にはもう道具三課と四課は合流している、四課がなくなり新生道具三課としてスタートする事になった。
今年中に開発部のメンバーを決めないくてはいけないのだが道具三課から引き抜くみたいで気が引ける、まだまだ時間はあるから急ぐ事はないか、と思っていたのだが
「アル、私も開発部に連れて行って」
ルイさんが来てくれるみたいだ。
「もちろんオッケーです、誰を開発部に誘おうか迷ってたんですよ」
「ありがとう、開発部での仕事が楽しみ、またアルに新しい事を教えてもらえるから……」
「あぁ魔力を急激に入れる事以外は特にないですよ」
「その技術が…………言うのはやめておく……それに冷風機のアイデアや王国との交渉も手伝ったって聞いてる」
「たまたまですよ、出来る事を出来る範囲でやっただけです」
「やっぱりアルはすごい……」
なんかルイさんの中で勝手に自分の株が上がっている、それに技術の事で何か隠された様な……。
「とにかくルイさんが来てくれるのはありがたいです。
あと二、三人は連れて行きたいところですね、ルイさんの転属の書類はもらっておきます」
「ありがとう、お願い」
さっそく一人目をゲットできた。
今日の風呂は久しぶりにいつもの面子が集まっていた。
「アルー、俺も開発部に入れてくれよ」
「道具課三課か四課からなら連れて行けるけど一課からは厳しいんじゃないか? クラン課長に頼みなよ」
大浴場でカイトが頼み込んできた。
「俺もその会議に出席したかったー、そしたらその場でねじ込んでもらう様頼んだのになー」
「いやいや個人の意見なんて通る雰囲気じゃ無かったよ、上の人の決定事項を伝えてるだけみたいな」
変に意見なんて言おう物なら副塔長にぶっ飛ばされるぞ。
「アルは凄いね、課長補佐って事は次に出世したら課長でしょ、あっという間に駆け上がってるね」
「そう言えば会議にケビンぽい奴がいたなー」
「それ僕だし! 目が合って手を振ったじゃん! わかってたでしょ?」
「ふぉふぉふぉ若い者はええな、どんどん出世するがいい」
「自分は出世したくありませんよ、親方も会議にいました?」
ドワーフは髭と同じ様な体型をしているから見分けがつきにくいんだよな。
すかさずカイトが口を挟む。
「バカッ、いるに決まってんじゃん、部長が出席しない訳ないだろ」
「えっ? 親方って製造部の部長なの?」
「お前自分達のとこの部長も知らないの? 親方は製造部部長兼武器一課課長だよ」
部長なんて現場に来ないから知らなかった。
「ふぉふぉふぉ部長なんて名ばかりじゃよ、儂は鍛冶場にしかおらんからのぉ、まぁ何か問題が起きた時にちと口を挟むぐらいじゃ」
そうか開発部もエルメスト課長兼部長だしな、部長兼課長か?
「そうだ! 今日こそアルの出世祝いをしに行こうぜ、前回は行けなかったからな、親方と兄貴もどうですか?」
カイトが急に提案してきた。
「うーむ、儂も祝ってやりたいとこじゃが今日はいつも行く酒場に新しい酒が入荷する日でのぉ、仲間と取り置きしてもらっとるんじゃわい…………今回は遠慮しとこうかのぉ」
「まぁ仕方ないですね、兄貴はどうっすか?」
カイトは兄貴にも声を掛けている、今日の兄貴は不気味なくらい静かだ、いつもなら筋肉がー筋肉でーと言ってくるとこだが。
「俺も遠慮しておこう、今は隣国がきな臭くて軍部全員飲酒は控える様言われているのだ、外出は禁止ではないがせっかくのお祝いに酒が飲めないのはつまらんからな」
「そうっすか、じゃあ三人で行くか」
「あの……僕の意見は?」
「お前は強制参加だよ」
「だな」
「えー!」
風呂から上がり三人で夜の街に繰り出す、親方も途中まで一緒にと思ったが長湯して美味い酒を飲みたいからと風呂に残った、ドワーフの酒に懸ける執念は凄まじい。
「さてと、街に出たがアルは何か行きたい店とかある?」
とりあえず繁華街に向かっているが行き先は決まっていない。
「飯の美味いとこがいいけどあんまりお店知らないんだよね、カイト達のおすすめの店でいいよ、今日はお前らの奢りなんだから」
「そうだなー、二番街の方に美味い煮込みの店があるけどちょっと遠いんだよなー、あとはガルフ亭か銀狼って言う宿屋の食堂も美味いぜ、ケビンもどっかあるか?」
「僕もあまりお店は知らないけど……エルフ料理を出す店があるよエルフしか入れない訳じゃないし、お肉やお酒も置いてあるよ」
「へーエルフ専用の店じゃないんだ」
「エルフの料理はさっぱりした物が多いから女性や年配の方にも好まれるんだ、前に行った時はエルフと人族が半々ぐらいだったかな」
「お店は近いの?」
「四番街の入り口の方だから……そんな遠くはないね」
「よし! そこにしようぜ、アルもいいよな?」
「任せるよ、なんてったってお前らの奢りなんだから」
お店は繁華街手前の細い路地に入った所にあった、看板には葉っぱが描かれており下に小さく『木の葉』と書いてある。
ケビンが扉を開けるとチリンチリンと付いていたベルが小気味良い音を奏でる。
「いらっしゃいませ、木の葉へようこそ、予約はされていますか?」
「あの、予約はしてないんですが三名入れますか?」
「大丈夫です、ただいま席をご用意いたします」
天井は高く、店内の多くの場所に観葉植物が置いてある。
間隔の広く取られたテーブルには七割ほどお客が座っている、程なくして席に案内された。
「じゃあ、一番高いワイン頼もう」
「バカ止めろ! お前は役職持ちになったけど俺達は平塔員だぞ、給料がなくなっちまう」
「たしか安くて美味しい白ワインがあったはずだよ!」
「そっか、じゃあそれでいっか、なんってたって今日は……」
「お前は黙ってろ!」
「もうわかったよアル!」
気の置けない友人に奢ってもらう飯は最高だね。




