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27.昇進予定

「ふぅ……では行きますか、殿下くれぐれもお気をつけ下さい」

「マルカスさんもお大事にしてください」

 マルカス係長は杖をつきながらふらふらとミレーネさんに付き添われ馬車に乗り込んでいった、あんなに元気だったのに事件後に急に老け込んでしまった。

「お爺様はもともと腰が悪かったのよ、今回の件で悪化してしまったわ」

 マルカス係長を乗せた後にミレーネさんだけが降りて来た。


 二人が目を覚ましてから三週間ほど経っている、業務の引き継ぎや住んでいた屋敷の引き払いなどがあったからだ、それでも早い方だろう。


「ミレーネさんも気を付けてくださいね」

「いつかあたしは戻ってくるわよ、このままやられっぱなしじゃ気が済まないの」

「じゃあ戻って来た時に行けるようにオシャレなカフェでも探しておきますね」

「ふふふ、やっぱりアンタ王子っぽくないわね、お爺様には塔を辞めたら殿下とお呼びしなさいと言われたけどアルはアルね、じゃそろそろ行くわ、またね」

「ええ、また」


 二人を乗せた馬車が王国に向かって走り出した、ミレーネさんは戻って来るといったが実際には厳しいだろう。


 普通の令嬢なら婚約または結婚してお茶会や夜会など社交に精を出しているはずだ、しかしミレーネさんは女性でも自立できる事を証明したくて祖父であるマルカス係長を頼って白の塔で働きだしたのだ。

 たぶん結果を残せなかった今、帰ったら無理矢理どこかの家と政略結婚させられてしまうだろう、貴族社会とはそんなものである。

 まぁ家出同然で城を出た王子である自分が言うのもなんだが……。

 もしミレーネさんが戻って来れるなら今より良い環境になっていると良い、そのためにも塔には早めに事件解明をして欲しい物である。




「もうすぐ新しい孫が産まれそうなのよ」

「ほぅそいつはめでたい、儂はこれ以上孫が増えると名前と顔を覚えきれんわい」

 ガハハ、オホホ。

 今日も道具四課は平和である、あの事件から結構日が経っているが仕事に変わりはない、倉庫を使う事をやめて製品を作業場の隅に置いているから作業場が少し狭くなったぐらいだ。


「今日の作業はここまでにしよう、明日は休みだから片付けはしっかりしておいてくれ、皆お疲れ様」

「「「お疲れ様でした」」」

「ミスト〜打ち合わせがてらご飯食べに行こ〜」

 道具三課のユーリ課長が入って来るなりうちの課長を食事に誘っている。

「あぁそうだな、ジャンも誘ってみるか」


 最近変わった事と言えば道具三課と連携する事が増えている、三課も四課も魔石の魔力充填や生活魔道具を扱う点では同じような仕事だし課長同士も仲がいいのもあるだろう。


「後輩くーん、課長達がご飯誘ってくれたけど一緒に行く? 奢ってくれるよ」

「あー今日はやめときます」

「なんで? お金の心配はいらないよ?」

「お金の心配はしてませんよ、ちょっと他の人とご飯に行こうかと思ってます」

「そっかー残念、また明日……は休みだから明後日ね」

「えぇまた、楽しんできてください」

 アンナさんはなぜあんなにお金に執着するんだろう? 不思議だ。


 さっき食事と聞いてカイトと飯を食いに行くのが先延ばしになっていたのを思い出したんだよね、男同士で行くのも楽しそうだ、どうせ皆、風呂にいるだろう。


 と思って風呂に来たのだが知らない人や服を着たまま湯船に浸かるセイリューさんはいるが今日に限っていつもの面子がいない、少し長湯をして待ってみたが誰も来る事はなかった、だったら課長達とご飯行けばよかったな。


 長湯を終えて街に出るか食堂に戻って食事をするか迷いながら寮への通路を歩いていると傍の草むらから猫が飛び出して来た、街では見かけるけど塔の敷地内にいるのは珍しい。


「よーし、よーし」

 ゆっくり近づいてみたが同じだけ距離を取られた、簡単には触らせてくれないようだ。

 よく見ると白猫でお腹に黒の縦縞が入っている、もう一度近づこうとした時

「その子はある方の使い魔ですよ」

 白い髪の少女が話しかけてきた。


「こんばんは、えーっとナムさんですか?」

 自分が知ってるだけでも同じ顔が三人はいたから間違っていたらごめんなさい。

「えぇ私はナムです、人族には見分けがつきにくいでしょう」

「すいませんわかりませんでした、それであの猫は普通の猫ではないんですね? 触ったらマズイですか?」

「白虎ちゃんはプライドが高いから触れさせないと思いますよ、それに今は塔の見廻りをしているのでしょう、私もですが」

「えっ?! あの猫の名前が白虎なんですか?」

「白虎ではなく白虎ちゃんです」

 ちゃん付けがそんなに重要? よく見れば模様も虎っぽいかな、猫に見えるけど魔獣か何かで虎に変身したりするんだろうか?

 白虎ちゃんはひと伸びした後スタスタと去っていった。


「ナムさんも見廻りをしてるんですね」

「悪魔の爪の事件から警備を強化しています、塔の敷地だけでなく街の方もなんで警備課だけでは足りないのです」

「はー総務も大変ですね」

「総務部は何でも屋ですから、そう言えばこの前の会議で貴方が話題になっていましたよ」

「えっ? 良い話ですか? 悪い話ですか?」

「何でも面白い魔法を使うとか」

 あー副塔長が話したのか。

「他にも話題に上がってました、今度部署などを大規模に改革予定ですが貴方は昇進や職場移動の対象になっていました、期待して下さい」

 昇進も移動も興味のない自分には不安しかない。

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