26.製造部薬品二課
「なるほど、その兄弟がウチの製品に細工をしていた訳か」
「でも細工された製品は化け物が食べてしまったみたいで無いんですけどね」
「それで兄は死んで弟は逃亡中か、なぜ四課の製品を狙ったのかがわからんな」
悪魔騒動から二日が経過している、今は会議室で課長と係長に経緯を報告しているところだ。
結局弟は門を閉鎖する前に逃げおおせてしまった、呪いのナイフを使って強行突破したらしい、逃げられた事にキレた副塔長がマジで怖かった。
次の日は事情聴取と倉庫の整理などで報告が遅くなってしまった。
「バレル係長は肝心な時にいなかったですよね」
「あぁ悪かったな、その兄弟が来る前に二課のカタリナがウチの製品を見ていくつか触れていったんだ、特に何をした様子はなかったが怪しいから後をつけてたんだ、ゴンさんには声を掛けといたんだがなぁ」
「あーゴンさんなら寝てましたよ、それでカタリナさんはどうだったんですか?」
「普通に塔の敷地から出て行ったから引き返して倉庫に向かった、そしたらもう騒ぎになっていたな」
「二課と言えば、あの兄弟、兄がキンパーで道具二課、弟がワイパーで薬品二課だったそうです」
「だったとは?」
「二人とも二ヶ月ほど前に塔を辞めてたみたいです、カタリナさんも道具二課だから怪しいですよね」
これは昨日の事情聴取の時に聞いた話だ、風貌を聞いて調査した結果元塔員だった事が判明した、今日あたり道具二課と薬品二課には調査が入っている事だろう。
「ウチの製品を狙った理由はわからずじまいか……実行犯はいなくなったかもしれんが第二倉庫は使うのは止めよう、出来上がった製品は作業場の隅にでも置いて、置ききれない物は面倒だが第一倉庫に運ぶ事にしよう」
「製品の管理も大事な仕事だからな、上手く捕まえれば理由も分かったかもしれないが、アル、どうにかならなかったのか?」
「どうにもなりませんよ」
呪いだの化け物だのは一般塔員の範疇を超えている。
「少し鍛えてやろうか?」
「結構です」
会議の後に医務室に向かう、昨日マルカス係長とミレーネさんが目を覚ましたと聞いていたからだ。
「アルさん」
「いいんです、そのまま寝てて下さい」
ベッドから起きあがろうとするマルカス係長を止める、カーテンの向こう側のベッドにはミレーネさんが寝ているのだろう。
「この様な格好で申し訳ない」
「こっちが勝手に来たんでかえってすいません」
マルカス係長が寝たまま答えてくれる、約一週間寝ていたのだ、まだ体を動かすのは辛いだろう。
「犯人が捕まったから油断しました、もう少し様子を見ればよかったですね」
「それは仕方ありません、私も事件は解決したと思ってましたから、倉庫でのいきさつも警備課の者に聞きました。
我々を襲ったのはおそらく元道具二課のキンパーでしょう、私が見た男と聞いた風貌が似ていましたから、もう亡くなっているので確認しようがないですが……」
「しかし何故二人が狙われたんですか?」
「心当たりならありますが……我々経理部は守秘義務があるので詳しくは話せないのですよ、勿論総務や警備には相談はしています」
「怪しい所ならあるわよ」
カーテン越しにミレーネさんが話してきた。
「ミレーネ滅多な事を言うもんじゃない」
「お爺様、アルだって十分巻き込まれてるんだから知る権利はあると思うわ」
「しかし……そうだな知っていれば防げる事もあるかもしれないか……だが……」
「アル、製造部の薬品二課よ」
せっかくマルカス係長が濁していたのにミレーネさんは言い切った。
「私は悔しいのよ、せっかく仕事にも慣れて来たのに……それにもう塔を辞めるなら守秘義務も何もないじゃない!」
「えっ? 二人とも塔を辞めてしまうのですか?」
「あたしは辞めたくないわでも……」
「ミレーネ、もう十分話し合って決めた事だよ、わかっておくれ」
カーテン越しのミレーネさんは何も答えられなかった。
「ふぅ……少し疲れましたな……ミレーネの言う通りかもしれません、アルさん、私たちの知っている事を話しましょう、しかし今日は話し過ぎました、また後日来てもらえますか?」
マルカス係長は話し終えると目を閉じた。
起きたら事件の事情聴取もあっただろうし、ミレーネさんとも話しあったと言っていたから本当に疲れているのだろう。
「お疲れの所すいません、また来ます」
マルカス係長との話から二日後に医務室から呼び出しがあった、全て話すと言っていたからその事だろう。
医務室に着くと室外でミレーネさんが待っていた。
「お爺様は今寝てるわ、ちょっと場所を変えましょ」
手頃な場所がなかったため食堂に来ている、今はランチタイムも終わった時間帯な為、殆ど人はいない。
「来てくれてありがとう、今日はアルと話がしたかったからあたしが呼んだの」
この時にマルカス係長ではなくミレーネさんから話を聞く事になった。
薬品二課は主にポーションや解毒剤などの薬関係を量産している、薬品一課は薬の研究、開発をし、薬品三課は化粧品や美容関係の研究、生産を行っている。
三課の化粧品は近隣諸国の貴族や余裕のある庶民に人気があり売れ行きも好調らしい、二課の薬品は近隣諸国はおろか帝国や魔族の国にまで卸している、二課は薬品課の稼ぎ頭だ。
そして薬品一課はと言うと最近は新しい物が開発出来ず研究費など経費はかかっているのに結果を残せていない、これを面白くないと思う二課が一課を無くすか予算を減らせと言い出した、これに異議を唱えたのがマルカス係長だ。
そもそも二課の薬品の量産のやり方や三課の化粧品の一部は一課が開発している、少し成果が出ないからといって無くすわけにはいかないと。
経理部でも薬品課を担当していたマルカス係長が窓口になって対応していた、予算の増減は経理部の管轄だが薬品課の運営などは総務部もしくは塔の役員の管轄であり、いち係長にどうこう出来る問題ではないのだ。
しかし対応するのがマルカス係長だから薬品二課からしたらマルカス係長が先陣を切って反対しているように見えたのだろう。
この辺りがミレーネさんが薬品二課が怪しいと思う理由らしい。
「それだけでこんな事件を起こします?」
いくら邪魔な存在だからといってもこんな短絡的な行動を起こすものだろうか?
「それに薬品ニ課の課長はダークエルフなの、あまりいい噂は聞かないわ、それだけでも疑う余地はあるのよ!」
確かに疑わしいがそれだけだ、ミレーネさんは少し感情的になっているし、物事はいろんな側面から見てみないと判断は出来ない。




