25.悪魔の分体
「副塔長……何ですか? あれ、めっちゃ気持ち悪いんですけど……」
悪魔の爪を吸収した物体は一メートルほどの大きさに成長した、上部には大きな一つの目があり下部には歯並びの悪い大きな口がある、鼻の在るべき部分には苦悶の表情を浮かべた兄の顔が浮かび上がっている。
「テメー! そんな汚らわしいもん塔に持ち込むんじゃねえ!」
副塔長が弟に手を出そうとするが、一つ目の物体がそれを阻んだ、気づけば左右に二本づつ合計四本の触手の様な物が生えてそのうちの一本が鞭の様にしなって副塔長を弾いたのだ。
「邪魔すんな!」
今度は最初から一つ目を狙うが目の下の苦悶の顔が咆哮を上げる。
「あぁ〜〜!!」
気持ち悪い叫びが聞こえると殴り掛かっていた副塔長が一瞬硬直し触手に弾き飛ばされ、置いてあった箱を薙ぎ倒しながら見えなくなった。
副塔長がいないとあの化け物を倒す手段がない、一つ目はこちらを気にせず周りに落ちている木の破片やら何らかの商品などを触手で掴んで大きな口で貪っている。
「あー! 厄介だな、クソがっ!」
副塔長が瓦礫を押し除け悪態をつきながら戻って来た、手甲が凹んでいるから咄嗟にガードはしていたのだろう。
副塔長はそのあとも何度か一つ目に殴りかかるがその都度弾き飛ばされた。
「お前、攻撃魔法とか使えないのか?」
「初級の魔法しか使えないんであの化け物に効くとは思えないんですけど……」
魔力付与はしているが、攻撃魔法なんて学生の時以来使っていない、ぶっちゃけ使えるかわからない。
「チッ! アレが成長するのはマズイ、目玉を潰せば殺せるはずだがあの顔が叫ぶと体が固まっちまう」
近づくとあの顔が叫んで硬直させてくるから遠距離攻撃が必要なのか。
「副塔長が魔法で攻撃とかしたらどうですか?」
「あっ? 俺は身体強化に全振りしてるから放出系は使えねえよ!」
近距離特化と無能の二人では手詰まりである。
「外に誰か呼びに行きましょうか?」
「いや、今殺す、何か投げる物を探せ!」
周りの物を捕食していた化け物は今や三メートル程に成長していた、早く倒さないと際限なく大きくなりそうだ。
壊れた木箱から散乱している物の中から投げられそうな物を探すとちょうど良さそうな物が目に止まった。
「副塔長コレなんかどうですか?」
副塔長は近くにある物を手当たり次第目玉に投げつけていた、殆ど触手に弾かれているが食事の邪魔をするには功を奏している。
「槍か、ちと軽いが何とかなるか?」
自分が拾ったのは一メートルほどのショートスピアだ、二本あったから両方とも持って来て一本を即座に渡す。
副塔長の長い腕から槍が放たれると触手をかわして目に突き刺さる、一つ目は痛そうに触手をバタバタとさせた後、触手を使って槍を引き抜きそのまま口に運んで食べてしまった。
「浅いか、オイ! もう一本よこせ!」
「はい、あっ、ちょっと待って下さい」
副塔長は軽いと言っていたから重くしよう、水の魔力を貯めて貯めて……ハイッ。
重くすれば威力が上がると思ってやったが想定以上に魔力が入ってしまった、あまりの重さに手を離してしまうとドゴン! と見た目より重い音が響いた。
「あっ……すいませんちょっと重くしようと思ったんですがやりすぎました……コレ投げれます?」
床に落ちた槍をバーベルを持つ様に両手で持ち副塔長に見せる、持ち上げる事は出来ない、支えているだけで腕がプルプルする。
副塔長は片手で槍を掴むとさすがにバランスをくずしたがそれでも倒れずに踏みとどまる。
「お前面白ぇ魔法持ってんじゃねえか、コレでアイツをぶっ殺す!」
副塔長は一度深呼吸をして三歩助走をつけて
「アーーーー!!」
雄叫びと共に全力で槍を投げた。
一つ目も先程の槍を警戒してか、いつの間にか増えた触手八本を前面に押し出し、瞼も閉じてガードしている。
全力で投げた槍は触手を貫き、閉じた瞼ごと体を貫き、激しい音を立てながら倉庫の裏側の壁も貫いていった。
瞼ごと目玉を貫かれた一つ目は風船が萎む様にしわしわと小さくなっていく、残されたのは干からびた男の死体と小さな黒い爪だった、死体は兄だろうが弟はいつの間にかいなくなっていた。
副塔長は黒い爪を拾い上げた後、床に落として踏み砕いた。
「クソが! まぁいい、ぶっ殺せたからな」
「あの……大丈夫なんですか? 呪いが残ってたり証拠品になったんじゃ?」
「もう呪いは感じられねぇ、証拠も何も逃げたアイツを捕まえて吐かせればいいだろ」
脳筋である、逃げた弟も簡単に見つかるのだろうか?
そうこうしているうちに騒ぎに気付いた警備員達がやって来た。
「副塔長コレはいったい?」
目の前には干からびた男の死体、周りは化け物が荒らした為、壊れた木箱やら品物が散乱している。
「不審者が魔物を召喚した、魔物は倒したが召喚者が逃亡中だ、今すぐ門を閉鎖して逃すな、茶色のローブを羽織った前髪の長い若い男だ」
「「ハイ!」」
警備員達はすぐ行動に移る、副塔長も捜索に行くようだ。
「あのー自分はどうしたらいいですか?」
これ以上危険な事に関わりたくないんだけど、もう帰っていいですか?
「あの男の顔を見てるんだからお前も行くんだよ」
「ですよねー」




