20.終わらない事件
「アル、お前彼女出来たんだってな、昇進して彼女も出来て今が一番楽しい時じゃないのか?」
仕事を始めるなりバレル係長が冷やかしてきた、今日からは開発に行っていたメンバーが戻ってきて四課は全員揃っている。
「あー違うんです、彼女ではなくて、その説明すると長くなるんで……とにかく恋人はいないですから」
「アンナちゃんがアルが彼女と仲良くデートしてるのを見たって言ってたぞ、別に隠さなくてもいいじゃないか」
「だから違うんですって!」
「後輩く〜ん、今楽しいかい? 幸せかい? お金ちょうだい」
情報の発信源がやってきた、絶対お金はあげない。
「アンナさんあの人は彼女ではないんです、だから変な噂は流さないで下さい」
「またまた〜仲良く腕組んで歩いてるのを私は見たよ、彼女さんは塔の人でしょ、見たことあるよ、どこの部署の人? どうやって付き合ったの? ねぇ教えてよ」
もうこの人には何を言っても無駄な気がする、そこにルイさんが現れ
「アル……彼女がほしいなら私がなってあげたのに……」
「えー! ルイちゃん後輩君の事好きなの?」
「別に好きじゃない……アルの望む物がわからないから……」
はっきり好きじゃないと言われると傷つく。
「でもアル君は主任になって将来有望じゃない?」
「私も彼氏がいなかったら立候補したかもー」
他の人達まで適当な事を言い出した。
収拾がつかなくなってきた時、課長が来て
「ほら! 話してないで作業に戻ってくれ」
「「「は〜い」」」
こちらが弁明する間もなく皆作業に戻って行った、きちんと説明しないといけない、誤解されたままでは困る。
「アル主任総務の人が来てますよ、アルさんをお呼びです」
作業場で魔石に魔力充填中に声が掛かった。
「了解です、こちら側は終わってますから後そっちをお願いします」
総務部の人が何の用事だろう? 作業を他の人にお願いし応接室……ではなく角のテーブルに向かうと白髪に白い肌の少女が座っていた、たしか塔一階の受付嬢だったはず。
「お待たせしました、道具四課主任のアルです」
「総務部のナムです、まず聞きたいのは貴方は経理部のミレーネ・マルカスの事件に関わっていましたよね?」
「はい、犯人逮捕に協力してましたが……何かあったんですか?」
「昨日ブライド・マルカスとミレーネ・マルカスが何者かに襲われました、いまは話せる状態にないのです、貴方にその事を知っておいてもらいたくて報告をしに来ました」
犯人は捕まったのになんで二人が襲われた? 話せる状態ではないとは?
「詳しい話しをするため場所を移動しましょう」
そう言われたので課長に報告しナムさんについて行く事になった。
塔の階段を上がっていき五階を過ぎる、六階以上は一般塔員は立入禁止なのだがナムさんは気にせず上がって行く。
六階はそれほど広くはなく一階と同じ様な受付がありそこにはナムさんとそっくりな白髪の少女が座っていた、双子かな?
「連れて来た、上がるのでよろしく」
「はい、了解」
二人が短い会話をした後ナムさんは受付奥にある扉を開け中に入った、中は二畳ほど小さな部屋で中にはなにもなく壁にボタンが四つあるだけだ。
ナムさんに続いて自分も中に入るとナムさんは扉を閉めボタンの一つを押した。
扉を開けると先程の場所とは変わっていた、前の壁には窓がありだいぶ高い外の景色が見えた、この小部屋はエレベーター、動いた気配はなかったから魔術的な転移の様だ。
窓の外の景色に見とれてるとナムさんは隣のドアを
ノックして中に入ろうとしているので、慌てて後を追う。
室内は会議室の様な場所で真ん中に大きめのテーブルがあり左右には椅子が五つづつ並んでいる。
左の奥の椅子にはまたナムさんとそっくりな少女が座っていた、三子かな? そう言えばアンナさんが総務部に五つ子ちゃんがいるって言ってたな、同じ顔がどこかにあと二人はいるはずだ。
右の奥の椅子には副塔長が座っていた、その足下には二人の男が転がっている。
「連れて来ました、貴方はそちらに座って下さい」
ナムさんは同じ顔の少女の隣に座ったので必然的に自分は副塔長の隣に座る事になる、この人怖いんだよね、いつ暴力が飛んで来るかわからないから。
「まず今回起こった事の説明をしましょう」
二人の少女が今回の事件について語ってくれた。
一昨日捕まった犯人達は昨日塔に引き渡されて取り調べを受けていた。
ナイフを持ったストーカー男はこの塔の警備員で主に経理部のある四階にいた、その時にミレーネさんを見かけてストーカーになったようだ。
ストーカー行為を繰り返していたところ街で一人の男性に声を掛けられ「君のやっている事は知っている、素晴らしい事だ! これらを使えばもっとうまくやれるんじゃないか?」と言われいくつかの魔道具を渡され、冒険者も紹介されたようだ。
「その魔道具を渡した男が黒幕と言うか真犯人なんですか?」
話し聞いていても明らかにその男が胡散臭い、犯罪を犯してるのを知った上で助長している。
「そうですね、捕まった男達がこの情報を吐いたのは今朝です」
「それにブライド・マルカスとミレーネ・マルカスが襲われたのは昨日の晩です」
二人の少女が捕捉してくれた。
「それでマルカスさん達二人の容体はどうなんですか?」
「傷は大した事はない、ですが……」
「眠ったまま起きない状態です、おそらく悪魔の呪いを掛けられたのでしょう」
「悪魔の呪いですか?」
「そうです、貴方はこれに見覚えはありますか?」
そう言ってテーブルの上にある禍々しいナイフを指さす、テーブルの上には他にもいくつかの魔道具らしき物が置いてあった。
「たしか犯人が斬りつけてきたのがそのナイフだったと思います、あとそこの裂けたマントも犯人が着ていた物かと……」
「これには呪いが付与されています、これで傷つけられると深い眠りに落ちる様です」
「経理の二人はこれと同じ物で傷つけられたのでしょう、昨日の夕方に道端で二人が倒れているのが見つかりました」
じゃああの時怪我してたら自分も同じ目に遭っていたのか、疾風さんに感謝だ。
「塔の物に手を出す奴は許せねぇ!」
今まで黙っていた副塔長が声を上げる、この人怖いんだよ、常に殺気? だか怒気? みたいな物が洩れてる感じがする。
「唯一の手掛かりを貴方は眠らせてしまった、もう少し考えて行動すべき」
「そうだ傷つけるのは一人でもよかったのでは? 二人とも眠らせては情報が増えない、これはあなたのミスです」
副塔長に文句を言えるこの二人凄いな。
「あーどうせコイツらは何も知らねぇよ、魔道具の男の事も曖昧だった、認識阻害の魔道具でも付けてたんだろ!」
そう言いながら足元の人物を蹴り飛ばす、仰向けになった人物は冒険者風の男だった、じゃあもう一人がストーカー男か、呪いのナイフで傷つけて寝ている訳か。
「それにどうせコイツら殺すんだろ?」
「勿論です」
「塔に害する者は許されません」
えっ! 何この人達、怖い! 執行猶予はないのか!
「なら問題ねぇだろ、無駄かもしれんが魔道具男の捜索、それに警備のヤツらに街の警備を強化する様言っとけ、それとお前!」
「はっはい!」
「犯人の目的がわからねぇ、また狙われるかも知れねぇから気を付けろ!」
「はい!わかりました」
と言ってもどう気をつけたら良いものか。




