18.恋人擬装
夕方、レストランガルフのオープン席にて
「はい、ミレーネあーんして、美味しいかい?」
「……美味しい……」
自分はデザートの果物をミレーネさんに食べさせていた、ミレーネさんは顔を赤くしながら果物を食べている。
「さっ腹も膨れた事だし食後の散歩に二番街の公園まで歩こうか?」
「……わかった……」
お会計を済ませ店を出ると、肘を突き出して
「ほら、ミレーネ」
「うー」
恥ずかしそうにミレーネさんが腕を絡ませて二人で夜道を歩いて行く、するとミレーネさんは小声で
「ここまでしなくてもいいんじゃない?」
「どうせやるなら徹底してやりましょう、どこで見てるかわかりませんからね」
自分も小声で返す、そのあとは公園まで行きベンチで談笑した後ミレーネさんを家まで送り届け、本日の任務完了である。
なんでこんな事をしてるんだろう。
原因は先日の経理部でのやり取りにあった。
「経理部係長のマルカスです、んっ? もしや……アルフレッド殿下では?」
「お久しぶりです、マルカス公爵」
王国で何度か会っている人だ、ただ名前を言われなければ思い出せなかった。
「やはりアルフレッド様でしたか、なぜ白の塔にいらっしゃるのですか?」
「一言で言えば権力争いが嫌になって城を出ました、今は製造部道具四課主任のアルでお願いしますマルカス公爵」
「そうなのですか……私も三年前に息子に家督を譲っているので今は経理部係長マルカスでお願いします」
ここは身分や権力が通用しない白の塔である。
「アンタ王子だったの? ……王族って感じはしないわね」
まぁそうでしょうね。
今度は自分が王子と言う身分を使って王国と交渉した事をマルカス係長に話した。
「さっきと話が違うじゃない!」
「すいません、さっきは王子と言う事を隠して話したので」
「ミレーネ、白の塔ではあまり身分をひけらかさない
方がよいのだ、それでもアルさん、全部道具課で引き受ける事はなかったのでは?」
久しぶりの王子役で調子に乗りましたごめんなさい。
「次からは営業部と分けるか日付をずらして下さい、一括では処理が難しいのですが、まぁ今回は何とかしましょう」
「ありがとうございます、次からは気をつけます」
こんな風に経費を使う事はもうないだろうけど。
「この請求書は何とかします、それで丁度良いところにアルさんが来たのでお願いしたい事があるのですが……」
「はい、自分に出来ることなら……」
請求書を何とかしてもらうだけに断りにくい。
「実はこちらのミレーネは私の孫娘でして、最近不審な手紙がミレーネ宛に届くのです。
差出人の名はなく最初は君は美しいなどが書いてあったのですがだんだんと今日の服は似合っていたとか夕食はどこで食べたや課長に怒られて可哀想だなど具体的になってきたのです」
「大丈夫よ、手紙だけで何もないんだから」
「何かあってからでは遅いのだ、お前が心配なんだよ」
詳しく聞いてみるといわゆるストーカー被害のようだ、手紙の内容的に塔の内部犯なので総務や警備に相談したところ被害がないと動かないらしい。
今は塔と家の往復はなるべく係長と一緒に行動したり自前で冒険者の護衛を雇ったりしているようだ。
「いつまでもこんな生活をしているわけにもいかないので行動を起こそうと思いまして……そこでアルさんミレーネの恋人役をしてもらえませんか?」
「「え〜」」
「大丈夫だってお爺様、王子も困るでしょ?」
「塔では係長と呼びなさい、同じ階の経理部、人事部、法務部は犯人がいるかも知れないので頼めない所に製造部で身元もはっきりしているアルさんが来たのは暁光です、恋人がいるとなれば相手も何かしらの動きを見せるでしょう、その時に相手を特定するなり捕まえるなりしたいわけですが、いかがですか?」
「いいですよ、自分に出来る事なら」
「いいの? 危険かもしれないのよ? それにあたしの恋人役なのよ?」
「綺麗な女の人の彼氏役なんて役得じゃないですか、あと王子と呼ぶのはやめて下さい」
「綺麗って……そう言う事じゃなくて」
「まあまあミレーネ、今のままではまずいだろう、アルさん、こちらも補助はしますのでお願いします」
こうして請求書の件が済み、ミレーネさんの恋人役をする事になったのだ。
「夜でもやっているオシャレなカフェを見つけたんだ、そこに行こう」
仕事終わりのデートは今日で四回目だ、個室に入っては意味がないのでオープン席の店を選んでいる。
未だにストーカーからの行動はないが、手紙も来なくなったらしい、諦めたかな?
「アンタ慣れてるけど、しょっちゅうこんな風に女の子をエスコートしてるの?」
カフェの席でミレーネさんが聞いてくる。
「王国の時も今も女性と付き合った事はないですよ、今は頑張って彼氏役を演じています」
「ふーん」
あー今のは絶対信じてない、ふーん、だな。
今日のカフェだって道具一課の課長に教えてもらったんだから、オシャレなカフェ? そんな所知らないよ。
ミレーネさんも最初は恥ずかしがっていたが四回目ともなるとだいぶ慣れてきたようだ。
「手紙男も何も行動を起こさないし、もう大丈夫じゃないかしら?」
「そうですね、次からどうするかマルカスさんと相談しましょう」
今も護衛の冒険者が客に紛れてどこかで監視しているし、自分もミレーネさんも服の下には防御力を上げる腕輪やネックレスなどの魔道具を装備している。
これらの費用も安くはないのだ。
カフェを出てミレーネさんを送り寮に帰る途中、背後から声が掛かる。
「お前、ミレーネの何なの?」




