17.主任就任
「俺は出世したくなかったんだよなー」
「同感です」
主任がぼやくので自分も同意する。
あの宴席から数日過ぎている、係長は出塔しないどころか宴席の日から行方不明になっている。
あのままどこかに逃げてしまったのか何らかの事件に巻き込まれたか、書類偽装の真相と共に消えてしまった。
結果主任が係長に昇進したのだ、道具四課はミスト課長、バレル係長、アル主任となったのだ、自分が主任ってのが未だに実感が湧かない
「でも主任……じゃなくて係長、嫁さんと子供がいるんだから出世は喜ばしい事では? 給料も上がるし」
「俺にもいろいろあんだ、お前こそ若くして出世したんだからもっと喜べよ、アル主任」
「自分は出世と共に責任が増えていくのがやなんです」
「「はー」」
「ねー何で二人とも昇進したのに溜息ついてるの?」
主任になったからと言っても特に変わりがない、道具四課の仕事の半分は冷風機作りを続けて残り半分は温風機開発に回っている。
だいぶ暑い時期に差し掛かってきたが次の季節の商品も準備しなければいけないのだ。
いずれは冷風と温風どちらも出せるものを開発したい、それも含めて開発には人材も時間も多めに割いている。
冷風機開発はユーリ課長と二人であの期間に仕上げたのが異常なのだ、開発している時は気づかなかったけど。
今回は開発にはノータッチなのでのんびりと冷風機を作っている、最初ほど大量の発注はこないので楽だ。
「あの……主任?……アルフレッドさん?アルさん主任?」
ルイさんが話し掛けてきた。
「主任はまだ呼ばれ慣れてないのでアルでいいですよ」
「……じゃあアル、あなたは私の閉ざされた道をもう一度繋げてくれた、ありがとう」
「ん? 何かわかりませんが四課で頑張った事がルイさんに良い影響を与えたなら、よかったです」
特に何をしたって心当たりはないけど。
「そんなあなたにお礼がしたいけれど……何も思いつかない……私に出来ることがあるならな何でもしてあげるけど……」
かわいい女の子が何でもしてあげるなんて言ったらイカンよ、エッチな要求しちゃうよ、しないけど。
「なら、魔法付与を教えて下さい、ルイさんの魔法付与とても美しかったので」
「そんなことでいいの? わかった今度教える……あっ私もあの籠手に付与したのを教えてもらいたい……ごめんなさい図々しくて」
「そんな事ないですよ、じゃあ今度一緒に魔法付与の練習をしましょう」
「うん……わかった……それからコレ、営業の人がアルフレッド様に渡してくれって」
そう言って一通の封筒を差し出す。
「なんだろ? ありがとうございます確かに受け取りました」
「じゃあ今度練習ね……」
ルイさんが仕事に戻って行く、よかった、どうやら嫌われている訳ではないらしい、で、この封筒はなんだろ?
「課長、コレ経費で何とかなりませんか?」
そう言って先程受け取った封筒の中身を見せる。
「これは……想像以上に高いな」
受け取った封筒の中身は請求書だった、王国担当のロイヤルさんからである。
王族と大臣に送ったワイン代と、手紙とワインを送る飛竜便の代金なのだが……飛竜便も高いがワイン代がヤバい、そりゃあ一国の王族に安物のワインを贈るわけにはいかないだろうがそれでも高すぎるよ。
「四課も材料費を払ったり、納品した国からの送金が遅れていたりとまだお金が上手く回っていないんだ、帝国分の時の手伝いに来てくれた人の日当など先に払って余分なお金があまりないのが現状だ」
これを自腹は流石にキツい。
「今四課に使えるお金がないだけであって、金の流れは基本的に経理部が担当している、直接経理に頼んでみれば経費で落ちると思うぞ、王国との取り引きに使ったのだから」
「ちょっとコレ持って経理部に行ってきます」
「あぁわかった行ってらっしゃいませ王子様、ふふっ……ふふふ」
自分が王子なのは課長の笑いのツボらしい。
経理部に行くのは初めてだ、五階に上がり経理部のドアをノックするが返事はない。
どうしようか、営業部の人みたいに失礼しますって入っていいのかな?
「何よアンタ、経理部になんか用があんの? 勝手に入ったら罰則があるわよ」
背後から声を掛けられて驚き振り向くと黒髪に眼鏡を掛けた気の強そうな女性が立っていた。
「すいません製造部道具四課の者ですが、この請求書を経費で落とせるか相談しに来ました」
「アンタ……経理に話があるなら一旦受付を通さないとダメよ、さっきも言ったけど勝手に入ったら罰則があるからね、お金を扱う部署なんだから、普段なら警備員が立ってるのに肝心な時にいないわね」
経理に直接来たらダメなのか、課長も教えてくれればいいのに……。
「まっ、ちょうどあたしが休憩入るとこだから相談に乗ってあげてもいいわよ?」
「えっいいんですか? 受付も通してないし貴重な休憩時間なのに」
「いいわよ別に、食堂でお茶でも飲もうかと思ったけど応接室で飲んでも変わらないから」
「それではお願いします」
「じゃ応接室はそっちだから着いてきて」
面倒見の良い女性に会えてラッキーだ。
応接室に案内されお茶を淹れてもらい軽く自己紹介をして問題の請求書を見せた結果。
「高いわね!」
第一声がこれである、たしかに高い。
「しかもあんた製造部でしょ? 営業部でもないのに何でワインを送ってるの?」
自分が王子であるのをぼかしながら事の経緯を説明する。
「なるほど……それなら、でも金額が金額だからちょっとおじ……係長に聞いてみる、ちょっと待ってて」
そう言って応接室を出て行く、彼女はミレーネさん、自分と同じオルタニア王国出身だった、王国案件だから親身になってくれてるのかもしれない。
しばらくするとミレーネさんは白髪に白い髭を蓄えた気の強そうなお爺さんを連れてきた、どこかで見た事があるような……。
「経理部係長のマルカスです、んっ? もしや……
……アルフレッド殿下では?」
別にバレてもいいんだけど王子と知ってる人に塔で会うとは思わなかったよ。




