10.嫌がらせ
「課長〜頭痛いです」
「魔力切れか、少し休んだら向こうの梱包を手伝ってくれ、あと……もういい」
営業部が来てから三日が過ぎた。
営業部が取ってきた近隣三国の仕事は四課の容量を越えている、課長代理が交渉して数を減らしたり納期をずらしたりしたがそれでも数が多いのだ。
「課長代理、私も魔力が切れました」
アンナさん以外の人達も魔力が切れ始めた。
「少し休んで組み立ての方に回ってくれ」
魔道具を作る為には魔力を使う、魔道回路を引いたり魔石に魔力を充填したり魔法を付与したりなどだ、冷風機作りも例外ではなく四課の皆も魔力切れを起こしている。
そんな中最後まで魔力切れを起こさないのは
「この二台は終わっているぞ、梱包を頼む」
さすがの課長代理。
「こっちのも終わったぞ、そこの途中の奴を取ってくれ」
元冒険者の主任、体力だけでなく魔力も多いらしい。
以外な所で
「残業なんて久しぶりじゃ、今度娘が孫を連れて遊びに来るでな、孫の為にも稼がんといかんな」
「まあまあ、私も孫に会いたいわー、どうせなら、もう一人や二人増やしてから会いに来てくれないかしら」
ガハハオホホの老人コンビ、元気な年寄りだね。
「ここの魔石は全部魔力充填済みです、組み立て用に使って下さい」
そして自分も魔力切れは起こさない、と言うか切れた事がない、三課でユーリ課長に扱かれた時も魔力は尽きなかった。
魔力量も数値化出来たら便利だけどそんな魔道具はないのかな? 私の魔力は五十三万です、とか言いたいのに。
「後輩君は魔力多いんだね」
アンナさんが休憩から上がってきた。
「魔道具開発の時も魔力切れはしなかったので人より魔力は多いのかも知れませんね」
これで魔術が上手く使えれば大魔導士とか大魔法使いみたいな者になれたのだろうが魔法の才能は無かったのだ、学園の頃、魔術の先生に「君は初級以上の魔法は使えないだろう」と言われてガッカリした記憶がある。
「ルイちゃんも魔力多いみたいだね、魔力付与もすごく綺麗」
もう一人魔力切れをしないのがエルフのルイさんだ。
最初の荷運びの時話しかけたがほぼ会話が成立しなかった、その後も何度か会話を試みたが上手くいかず諦めた、他の人とは普通に話しているところを見ると嫌われてるのかも知れない。
「じゃあ私はあっちで梱包してるから後輩君も頑張ってね」
魔力切れの人達は魔力を使わない作業に回る、残っている課長代理、主任、老人コンビ、ルイさんと自分の六人で魔力を使う作業を進めていく。
ふとルイさんの方を見ると風魔法の付与をしている所だった、時間を掛けて空中に薄い風魔法の膜を作り上げてそれを貼り付けている、アンナさんが言う様にとても綺麗だ、作業が終わるとこちらを見たので目が合うがすぐ目を逸らされた、やはり嫌われてる。
ちなみに最初に魔力切れを起こしたのは係長である、ホント使えない人だ。
「皆ご苦労様、今日の作業はここまでにしよう」
業務終了の声が掛かり皆が帰り支度をしていると
「あら〜道具四課の皆さんこんばんは〜」
道具ニ課のエロい人だ名前は……忘れた。
「カタリナ君、四課に何の用だ」
「ミスト課長お久しぶり〜今は課長代理だったかしら〜、あのねコレの付与をお願いしにきたの、納品先が連合国だから〜二課でやるのは、ほら? アレじゃない」
ミスト課長代理が二課を辞めるきっかけとなった書類不備が連合国に関する事だったとアンナさんに聞いた事がある、それから道具二課は連合国の仕事は避ける様にしている。
カタリナ嬢はおもむろに袋から籠手を四つ取り出す。
「課長! 二課の仕事なんてやる必要はありません! こんなのただの嫌がらせです!」
「あら〜アンナちゃん、だ・い・り・でしょあんまり怒るとシワが増えるわよ〜」
「あんたは……!」
「アンナ君もういい、私がやろう、皆は帰っていいぞ」
皆気にはなるが何も手伝えないからか帰って行く。
でも自分は見てしまった、課長代理が立ち上がろうとした時少しふらついて、付いた手が少し震えていたのを、魔力切れを起こしかけてるかも知れない。
「あのー、自分も手伝っていいですか? 魔力もまだまだありますし」
手伝いを提案する、くだらない嫌がらせで課長代理に無理をさせたくないと思ったからだ。
「この籠手に付与するの大変よ〜ミスリルも混ざっているから、ミスト課長代理じゃなきゃ無理じゃないかしら?」
魔力付与は素人だが何とかするしかない。
「課長代理やり方教えてもらってもいいですか?」
「アル君無理する事はない、これは私の問題だから」
魔力はまだあるしニ課の嫌がらせに屈するのは腹が立つ。
「魔力はまだまだあるので大丈夫です、さっさと終わらせてニ課の人にはお帰り頂きましょう」
「そうか……では頼む」
作業台に籠手二組、四つを並べる。
「これは水魔法を付与して硬度を上げる作業になる、難しい作業ではないが魔力を多量に使う」
魔力を多く使う作業を仕事終わりの時間に持ってくるとは……ニ課の奴等め!
「冷風機の付与と違って表面ではなく中に流し込む様にする事、ミスリルが含まれてるから魔力は流れやすくなっている、重要なのは一気に魔力を流し込むことだ、ゆっくりでは硬度が上がらないからな」
「わかりました、一個やってみていいですか?」
「ああ、頼む、難しい事はない素早く流し込めばいいだけだ」
水魔法を一気にね、溜めて、溜めて、三、ニ、一、ハイッ! おおっ確かにどんどん魔力が流れる、が、すぐに魔力が入らなくなった。
「もうこれ以上魔力入らないみたいです」
「早いな! それで、うん? これは……」
課長代理が籠手を持とうとした手が止まる、そのあと周りを触ったりコンコンと叩いたりする。
「失敗ですか?」
「いや……硬度は十分だ、寧ろこれで行こう、魔力は大丈夫か?」
「はい、問題ないです、じゃあ続けますね」
「ちょっと待ってくれ、作業台が割れるかもしれないからな、っとこれでよし」
課長代理は残った三つの籠手を離して配置する、作業台が割れる? とりあえず作業を続けよう三、ニ、一ホイッ、次、三、ニ、一オラっ、これで最後、三、ニ、一、ダー!
「終わりました、これで大丈夫ですか?」
「ああ十分だ、カタリナ君早く持って帰ってくれ」
「フン! 四課の若い子は優秀なのね、じゃあコレは持って帰り……持って……って何コレ超重いじゃない!」
重い? 自分は水魔法入れただけよ。
「彼の魔力が特殊なのか魔力が圧縮されたのかわからないが硬度は十分だ、さあ早くしたまえ」
「こんな重かったら籠手として使えないじゃない!」
「依頼された通り水魔法を付与して硬度を上げたのだ
何か問題があるか? あとはそちらでどうにかするんだな」
重い籠手を前に睨み合っている二人にアンナさんが台車を押して近付いていく、そして徐に籠手を持ち上げようとして……持ち上がらない。
「主任手伝って!」
「おっ……おう」
アンナさんが近くにいた主任を呼ぶ、主任と老人コンビとルイさんは残っていた、たぶん自分が手伝いを名乗り出なかったら何かしらの手助けをしたのだろう。
主任が籠手を全て台車に乗せると
「コレ持って帰って! 早く帰って! 四課の邪魔しないで! もう来ないで!」
アンナさんが叫ぶ。
「わ、わかったわよ、帰るわ」
重そうに台車を押しながらカタリナさんが出て行く。
「アル君、君には世話になる事が多いな、ありがとう、それとアンナ君もありがとう溜飲が下がった、残ってくれた皆もありがとう」
課長代理が皆に頭を下げる。
「さて後は若いもんに任せて儂等は帰るとするかのぉ」
「あらあら、そうね年寄りは帰りましょう、若い人はいいわねーほらっミストさんドアの所」
ドアの前には先ほど帰ったはずの四課の面々がいる。
「課長代理! 部屋から魔力回復のポーション持って来ました! 使って下さい!」
「私早めに魔力切れしたので少しは回復してると思うんで手伝わせて下さい」
「営業部の友達連れて来ました、今日は魔力使ってないから魔力付与できるそうです」
「私は……」
「私の……」
皆が出来る事をしてきたようだ。
「君達……ありがとう、問題は解決した、すまない、せっかく人や物を用意してくれたのに……」
「いいんですよ、課長代理」
「そうそう、物は次に取っときます」
「私も友達にご飯奢ってあげればいいだけだし」
「二課の人どうやって追い返したんですか?」
皆が課長代理と話しをしている。
二課の嫌がらせは迷惑だったが、四課の結束はさらに固まったようだ。




