8話 ハクタカ山・ゴブリン殲滅作戦 後編
ゴブリンの集落では、ビックゴブリンが肉をむさぼっていた。仲間は殺されてしまったが、人間を撤退に追い込んだ。しばらくは戻ってこないだろう。そう思い込んでいるところにクロスボウボルトが飛んでくる。風の影響で頭を狙ったそれは、肩に刺さる。ビックゴブリンはびっくりして肉を手放した。
「外れちゃいましたけど…毒矢なので効くと思います」
「よし、じゃあカレンと俺で前をはる。二人は援護を頼む」
「はい!」
「任せてぇ~。テキーラ君の仇よ~」
カレンとフルプレートに着替えて来た2人が、前線に出て剣を抜く。ゴブリンは雄たけびを上げながら大剣を振り抜き、そのまま突っ込んでくる。二人は左右に回避しターゲットを分散する。ゴブリンの身長は2メートル以上はあるだろう。図書館や研究所の図鑑に載っているゴブリンの平均身長が130センチ以下なので、相当デカいと言える。毒も通常ゴブリンと同じ量しかボルトに塗っていない。効き目はすぐに感じることができない速度で剣を振り、苦戦を強いられる。魔法攻撃を大剣で防御するビックゴブリン。ナラヌイがバフを撒く。物理攻撃軽減の加護などを祈り、ルリィはゴブリンに有効打とされている雷系の魔法を詠唱し続ける。
戦闘開始から20分が経過し、前衛二人は肩で息をする。フルプレートメイルでずっと激しく動き続けているのだ、無理もない。魔法使いも魔力切れが近い。僧侶が魔力増強の加護を唱えるも長期戦にはやはり向かない。一方ゴブリンは再び大剣を振り上げ、前衛二人に斬りかかる。ただ太刀筋が先ほどよりグラついていおり、前衛は回避に専念していたこともあり毒がじわじわと効いてきたように見える。
「もうちょっとだ…」
肩で息をするアトラが希望を見出す。カレンが突進し、袈裟に斬りかかる。ゴブリンは防御が間に合わず、肩口からズバっと切り裂かれる。が、反撃でカレンに大剣が振り下ろされる。彼は袈裟に斬った剣を逆袈裟に振り上げてどうにか攻撃を弾くことに成功する。
「こっちを、む・き・な・さ・い~!」
焦って詠唱したので詠唱文を間違え、火炎魔法が発動され、火球がゴブリンに飛ぶ。一戦目で効き目の無かった火炎魔法は、当然効き目は薄かったがヘイトを買うことに成功する。ビックゴブリンがルリィの方を向いたその時、アトラが思い切り走って斬りかかる。膝の裏を断ち切り、ゴブリンが悲鳴を上げながら地面に倒れ込む。間髪入れずに、首元に剣を突き立てた。断末魔を上げながらゴブリンは力尽きる。非戦闘員のゴブリンはいつの間にか逃げ出していなくなってしまったようだ。
「お、おわった」
アトラはビックゴブリンの討伐を確認し、座り込む。ルリィとカレンもその場に座り込み、ため息をつく。ナラヌイはルリィに魔力切れ防止の薬を渡し、前衛二人の治療をする。幸い、二人ともかすり傷だったので、ナラヌイの治療で事足りた。
「とにかく、テキーラさんが心配なので戻りましょう」
戦果確認もほどほどに、町に戻る提案をカレンがする。反対する者はおらず、満場一致で町に戻る。町に戻ると、入り口で看護士が手を振っていた。
「皆さんお帰りなさいませ! けが人はいますか!?」
「ルリィが魔力欠乏症になりかけてる。先に連れて行って欲しい」
「わかりました。先生がお待ちしていますので病院にお越しください!」
看護士はルリィに肩を貸して病院に向かう。カレンたちは一度町のギルド派出所に報告を入れに行く。依頼の期限まで1日もなく、地主も待ってくれないということだったからだ。
「こちらで地主様にはご報告を入れておきます。おつかれさまでした」
「よし、病院へ急ごう」
3人は病院へ急ぐ。病院の入り口に着くと、医者が診療時間が終わってるにもかかわらず待っていてくれた。
「待っていましたよ。テキーラさんの容態は安定してます」
3人は胸をなでおろす。治療棟に案内され、ベットに寝ているテキーラに見舞いを入れる。
「テキーラ…倒したぜ」
「そうか…その場に立ち会えなかったのが残念だ。改めてカレンさん。すまなかった」
テキーラは頭を下げる。それを見たアトラとナラヌイも頭を下げた。カレンはびっくりして首を横に振る。
「大丈夫ですよ! 誰も死ななかったんですし! それでいいじゃないですか」
「そうは言うが今回の事態を招いたのはリーダーの俺がずっと目を背けた怠慢だ。結果としてカレンさんだけじゃなく…みんなに迷惑をかけた。」
「アトラさん…」
「これからはギルドに復帰して真面目にやるよ」
「アトラ、俺らも付いて行くぜ」
「そうです! 私も!」
「あらぁ、私がいないところで決起会かしらぁ?」
扉が開き、点滴を打っているルリィが入ってくる。アトラが必死で弁解しているのをみんなが笑って囲む。明るい空気が病室を包んだ。そのまま病院に泊まり次の日、地主に依頼報酬の”きんか”の情報を聞きにミーミヤへアルテナの面々と一緒に向かった。




