7話 ハクタカ山・ゴブリン殲滅作戦 前編
ゴブリンたちは大きな骨付き肉を焚火で焼き、喜び宴をしている。先ほど捕まえた猪の肉を無造作に解体しお粗末な木の棒にかけて焼いている。空は快晴、天気も良く気分も上場…と、急に空が曇り出した。自然に曇る様なゆっくりとした雲の動きではなく、一瞬で青空が雲で覆われる。そしてポツポツと雨が降り出す。せっかくの肉と焚火が水の泡になった。肉はびしょびしょ、焚火は消化されてしまった。一匹のゴブリンが、人間の臭いに気が付き振り向く。そこには魔方陣を展開した人間がいた。
「天気を操る魔法。初級魔法だけどぉ…ここに」
ルリィは詠唱を続ける。雨雲がさらに黒くなり、ゴロゴロと雷鳴をとどろかせ、その音にゴブリンたちは空を見上げる。
「いくわよ~連鎖雷!」
ビカっと空が光ったかと思うと、雷がゴブリンを貫く。貫いた雷撃は隣のゴブリンへと向きを変え、5匹のゴブリンを黒焦げにした。仲間のゴブリンが大声を上げると、集落のお粗末な住居から山ほどゴブリンが出てくる。
「いっぱいいるなぁ」
テキーラは指を鳴らす。関節が、小気味よくコキコキと鳴る。ルリィは次の魔法を準備する。カレンはルリィの支援をする。ルリィを護衛しながら、彼女の魔力を増幅させる魔法を詠唱し続ける。青い魔方陣が常にルリィを覆い、放つ魔法の威力が増大する。
「俺らもルリィに負けてられないな。行くぞ!」
アトラとテキーラが突入し、ナラヌイは補助魔法で全体の支援をする。ゴブリンの数は50を優に超えており、戦力としてもこちらが劣勢に見える。だが、複数体に干渉できる魔法を持つルリィが敵をなぎ倒し、リーダー格のゴブリンはアトラとテキーラが先頭に立ち討伐する。ゴブリンの集団を斬って投げて、魔法で吹き飛ばして、切り開いていくと一匹体格の違うゴブリンが現れる。
「でけぇ」
「こいつがリーダーか?」
「おおきいわねぇ~そうなんじゃないかしら?」
「大きな刀ですね…」
カレンの言う通り、背中には大剣を背負っている。それを抜刀し、雄たけびを上げる。
「グオオォォォオ!」
「くらいなさい! 火球!」
火球はルリィの手から放たれ、ビックゴブリンに直撃する。が、煙の向こうからぬっと進み出てきたソイツは全く意に介していない様だった。
「効いてない!?」
「耐性があるかもしれない。カレン! いくぞ」
「はい!」
アトラとテキーラにカレンが加わり、3方向から攻撃を与える。ビックゴブリンの攻撃は強力で、攻撃範囲も広い薙ぎ払いなどが主な攻撃だが、動きは鈍重でしっかり見ていれば避けることができる。
テキーラが正拳突きを放った瞬間、ゴブリンは雄たけびを上げる。超至近距離で叫ばれたテキーラはその場で怯んでしまう。
「危ない!」
カレンが地面を蹴り、守りに入ろうとするがとても間に合わない。かろうじてテキーラの背後に回り、引っ張ることに成功した。ゴブリンの大剣の薙ぎ払いでテキーラが斬られる。カレンがぴっぱったおかげで、体が真っ二つになりそうな斬撃を多少軽減できた。
「この野郎よくも!」
アトラは背中を斬りつけ、ヘイトを買った。カレンはその間に後方までテキーラを引きずり、ナラヌイの所まで運ぶ。
「ひどい傷…すぐに町まで運ばないと!」
「ここでの治療じゃダメなんですか!?」
カレンが聞くとナラヌイは説明をする。
「私が治療できるのは切り傷の軽傷から中程度の傷です…ここまで深いと一度止血をして病院に連れて行かないと…つまり内臓系は私では治療できないんです」
戦闘を継続しているアトラが大声を上げる。
「ナラヌイ! 傷はどうなってる!」
「すぐに病院に行かないと!」
「わかった!」
カレンは煙球を足元に投げ、ゴブリンの前から姿をくらます。集落自体の殲滅はほぼ完了しており、あとはあのビックゴブリンと子供のゴブリンだけだ。
傷を見たアトラは、
「よし、すぐに帰ろう。まずは止血を」
ナラヌイは傷口に手を当てる。傷口が縫合されたような跡になり、血が止まる。
「行きましょう。ふたりはテキーラを運んでください。私とルリィで前をはります」
簡易担架にテキーラを乗せ、ミーミヤではなく、最寄りの町へいく。小さいが病院に行くと、町医者がすぐに駆け付けた。
「こんなひどい傷…何があったんだい?」
「ビックゴブリンの斬撃を躱しきれなかったんだ…すまないが先生。こいつの治療を頼む。俺らは敵を討ちに行ってくる」
「ふむ…気をつけて行くんだぞ」
医者はテキーラを治療室に運び、4人はその姿を見送る。事前の作戦、打ち合わせではこのビッグゴブリンは想定されていなかった。最大の脅威としてホブゴブリンくらいであろうと思っていた。
「俺らが放置し過ぎたんだ…」
アトラは少し傷心気味だった。話を聞くとアルテナは以前も他の冒険者と集落殲滅依頼を地主から依頼されていた。しかし、冒険者には金を渡して帰らせたうえ、はぐれゴブリンを何匹か狩り、それを証拠として依頼を完了していた。彼らの怠慢が、今回の悲劇を生んだのだと。ルリィとナラヌイも顔を背ける。リーダーの決断とはいえ、それを選んだのもまた、自分達だ。カレンはその様子を見て、自ら提案をする。
「アトラさん達がその依頼を完了した経緯はわかりました。でも、今回のゴブリンを倒さない理由にはなりません。僕が前をはるので討伐しましょう!」
「…だがもしもの事があったら」
「構いません! 僕がやられたらそのまま撤退してください。その代わり僕が倒れるまでは支援をお願いします!」
カレンの声はアルテナの3人を動かした。彼らは再び、ゴブリンの集落に向かうことになった。




