5話 金花の情報か?
装備紹介
カレンのライトアーマー
カナルギウムの鍛冶職人が作った市販のライトアーマー。特筆するべき点は無い。軽くてそこそこ丈夫で、打撃に強い。斬撃には少しぜい弱だが、新米冒険者が購入するにはちょうどいい値段だ。
カレンのバックラーと短刀
カナルギウムの鍛冶職人が作った市販の武具。属性付与の刻印は購入した後、自分で打ち込んだ。四半で買える武具にそういったオプションはついていない。木と皮で作られたバックラーは、打撃、斬撃に強い。魔法攻撃を防ぐのは厳しいが、新米には十分な性能をしている。
包囲された中でカレンはゴブリン4匹と戦う。1体1体が突撃するのではなく、必ず2体が接近攻撃を仕掛けてくる。新米冒険者のカレンにはすべてを防ぐ技術はまだない。しかし、ギルドで着替えたライトアーマーが致命的な攻撃は防いでくれていた。戦闘の中で弓矢を放つゴブリンだけは、細心の注意を払った。万が一アーマーの隙間や、頭なんかに当たれば、経戦能力に支障が出る。
「ギャハッ」
「先に遠距離持ちを倒すべきかな」
バックラーを正面に構え、盾の内側で剣に属性を付与する。20メートル離れたアーチャーゴブリンに対し、斬撃を飛ばした。剣を振ると、渦巻く斬撃がゴブリンを引き裂いた。威力は弱いが、下級ゴブリンには十分すぎる火力だ。1回の斬撃で、剣に付与した魔力を全て消費する。そもそもの貯められる魔力が少ないものの、
「1撃しか撃てないのはなぁ… 帰ったらいいの買おう」
残りの4匹、ここからは属性付与なしで戦う必要がある。腰のポーチから煙球を取り出し、地面に投げつけた。全員の視界が真っ白に染まる。煙昆虫の粉塵から作られた煙球の煙は6秒で晴れる。辺りを見回すと、先ほどまで包囲していた人間がいない。
1匹の脳天をクロスボウのボルトが貫く。その場に崩れ落ちた仲間を見て、刺さり方から射手を見つけようとする。だが、麦が高く生い茂り見つけることができない。ここでゴブリンたちは襲ってきた人間が一人ではないかもしれないと本能的に考えた。そしてようやく、この場から逃げるという選択肢が頭に浮かんだ。1匹の人間であれば勝てるがいっぱいいるのであればこちらが不利、そう分かっているのだ。
「逃げちゃうか…」
ボルトを再装填しながらつぶやく。射角でバレない様にミムギの中に身を隠したのが仇となった。2発、3発と続けて外す。
「あちゃーこれだめだね」
簡易キャンプまで戻り、置いてあった鞄から一回り大きいクロスボウを持って麓を日が昇るまで捜索したが、完全に逃げ切られてしまった。
朝になり、老婆が畑仕事をするために起きてくる。大きなカバンを背負った冒険者が、農場の入り口で立っている。老婆はゆっくりと歩み寄り、農場の鍵を開ける。
「おぉカレンさん、昨日寝る前にゴブリンを見てから心配だったんじゃよ」
「ごめんねおばあちゃん、3匹逃がしちゃったんだ…」
老婆は笑顔で肩を叩く。
「孫みたいな年のあんたが生きて帰ってきてくれたことが、何よりもうれしいさね。さ、朝ごはんでもお食べ」
そう言って老婆は農場の中へ迎え入れる。カレンも断らず、その好意を受け入れた。
出してくれたのは野菜がたくさん入ったスープと、かまどで焼いたパンをたくさん。暖かく、ホロホロになるまで煮込まれた野菜の旨味に心が温かくなる。焼き立てのパンは野生ではなく、農場で栽培されたミムギを使用しており、芳醇な香りで包まれている。食べ終わった時、
「残ったパンはよかったら持ち帰っておくれ。婆さんにはたくさんは食べれなくてね」
余ったパンを風呂敷に包んでくれた。カレンはさらにこの前ペコの実を入れていたカゴに収納する。
「おばあちゃん、じゃあ。また依頼を見かけたら来るよ」
「はいな。依頼が無くとも、いつでもおいで。お腹いっぱいにごちそうするからね」
老婆に見送られてミーミヤへの道へ出る。野菜の輸送馬車にたまたま便乗させてもらい、ミーミヤのギルドに戻る。
「カレン様。おかえりなさいませ」
「依頼の達成証拠のゴブリンの耳、これね。あと、キャンプに使った野生のミムギの稲穂」
「ありがとうございます。報酬の銅貨10枚です、まだこちらに滞在なさられるのですか?」
「うん、何かある?」
「”きんか”を報酬に掲げた依頼が1件ありまして…ただ、地主様が持ち込んで情報をほぼ言わずに、その…かなり強引に押し付けてきたもので」
「いいよ、契約金は?」
「銀貨2枚です」
「ふーん。報酬は?」
「…きんかの情報としか」
「まぁ、ほんとに金花の情報だったら安いし、受けるよ」
一日経って、地主の家にカレンの姿はあった。メイドが給仕をする中、無駄に縦に長いテーブルで、地主と食事をする。出されたソーセージは豚の血の臭いが残っている。これならその辺の露店で食べる粗末な軽食の方が美味しいだろう。
「どうだ家のメシは! 旨いだろう! ナハハハ!」
「おいしいですよ…ハハハ…」
地主は、血の匂いがするソーセージを食べながら葉巻とワインを嗜んでいる。彼の息は死んでも吸いたくない。
「今回は俺の雇った奴らとゴブリンの集落を攻め落としてもらう。あいつらは俺の土地で好き勝手し過ぎだからな!」
「わかりました。報酬は”きんか”の情報なんですね?」
「あぁそうだ、きんかだきんか! 探してるって聞いたんだぞ、ありがたいだろう?」
「探してますけど…誰から聞いたんですか?」
「フン! どこからでも情報なんざ手に入るわ! 雇った奴らはもうすぐ来る」
葉巻を吸い、煙をボワッと吐き出す。まるで煙突だ。さっさと食事を終わらせ、待合室に行く。メイドが一人ついてくる。警備メイドらしく、メイド服の裾から鎖帷子がちらっと見えた。待合室に入ると、メイドが目の前に来て一礼する。
「ご主人様が失礼な態度を取り申し訳ございません」
「へ? あ、いや。いいですよ。依頼者ですし、地主さんでしょ?」
「ではありますが、故人であるお父様より継いでからまったく仕事はしておりませんで…今やメイドが運営していると言って差し支えないのです」
「…そうなんだ。まぁなんとなくわかったから」
メイドとその後雑談をする。1時間話し込んでいたら、待合室の扉がドンドンと叩かれる。
「邪魔するぜー。なんだよ今回はちびっこか」
頭をポリポリと搔きながら中年の戦士が入ってくる。後ろには魔法使い、格闘家、僧侶を連れたテンプレ的なパーティーメンバーを連れている。
「今回は?」
メイドがカレンと集団の間に割って入り、紹介を始める。
「こちらは冒険者ギルドより、カレン様。こちらは、ご主人様がいつも雇っております…無所属の冒険者の方々…名前は…」
「アルテナだ。俺らの名前は別にいいだろ」
「…です」
アルテナと名乗ったパーティーをまっすぐ見る。彼らはこちらを見下すような態度を取っている。
(とても協力関係を気づけるとは思えないけどなぁ)
カレンは出発前にギルドに戻る。部隊構成から、ライトアーマーではなく、フルプレートメイルの方がいいと判断したのだ。
「ガキ、遅いぞ」
「すいません。準備が遅れました」
「ッチ…俺はお守じゃねぇんだぞクソオヤジが。行くぞ!」
かくしてカレンと、冒険者アルテナはゴブリン集落殲滅に向かった。
登場人物紹介
カレン
カナルギウム支部所属の新米冒険者。戦闘経験はそれなりで、加入試験は100点満点中78点で合格している。記述50満点、実技50点中28点の成績。真っすぐな戦闘より、からめ手を好む傾向にあり、正面戦闘は試験の中でも評価が低かった。
農家の老婆
ゴブリン退治を2か月前にギルドに依頼した。無事にカレンが戻ってきてくれたのが何よりもうれしく、戻ってくると信じて彼の分も朝食を作っていた。手のしわが増え、腰が曲がり、日に日に畑仕事が難しくなっている。彼女の夫はゴブリンと対峙し、命を落とした。
地主
父親の急死で後を継いだが、その実仕事はメイドに任せきり、収入は葉巻とワインに費やしている。メイドの扱いもぞんざいで、メイドたちは陰で「先代の時は…」と囁いている。
冒険者集団アルテナ
ギルド非所属の冒険者集団。「アトラ」「ルリィ」「テキーラ」「ナラヌイ」の頭文字を取っている。かつては冒険者ギルドに所属していたようだが…?




