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金花を求めて  作者: 三日月 帆立


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3/11

2話 初級クエスト、果実採取

登場生物紹介


カリウスライム

 スライム亜科に属する緑色のスライム。体色が緑なのは草食で、畑の野菜や森林の草を食べるため。火属性に耐性があり、焼き切られても、断面から焼き後を再生する。また、氷、毒に弱く体の99%が水分のため、凍ると生命活動に支障が出る。毒は特に神経毒が有効。毒の種類によっては効き目が弱いときがある。(野菜の防虫薬と同じ効果の毒など)


ペコジカ

 ペコの実がなる木の皮が好物な、カリウの森限定の種族。茶色の体毛に、真っ白な角が特徴。縄張りに入る他の動物を積極的に襲う。ペコの木以外も齧るが、その木は縄張りの証で、一日に一回は巡回をする。角の希少価値が高く、密猟者や盗賊の資金源となることもある。そのせいでより一層人間には警戒度が高い。


登場人物紹介


カレン

 16歳の冒険者 (ジョブ・エンチャンター)錬金術師の家系に生まれた長男で、妹が一人いる。保有銀貨は自宅の金庫と国営の銀行に預けられている。額は非公表だが、銀行からVIP待遇を受けるくらい保有している。ペコジカの存在は知っていたが、気性の荒さはそんなに警戒していなかった。

 カレンは、刀身が燃え上がる剣でスライムに斬りかかる。1匹目は回避が間に合わずその体を焼かれ、ジュクジュクと音を立てる。スライムが焼ける特有の臭いは、大半の人間の嗅覚を刺激する。他の薬品や、発酵食品などとは違う形容し難い匂いだ。火属性で攻撃したのは失敗だったかもしれない。斬りつけたところが水膨れのようになっているが、時間経過と共に修復しはじめている。

「だったら、こっちかな」

 

 刀身の刻印に手をかざすと、剣が冷気を纏ってカレンの周囲の温度が下がる。氷属性を纏わせた剣で地面を斬りつけると、氷の剣山がスライムに向かって伸びる。スライムは、すんでのところで躱したが、左半身に剣山が掠り、その身が凍り付く。液体の様な体は冷気に弱いようで、明らかに動きが鈍くなっている。

「弱点みーっけ!」

 凍てつく刀身でスライムを切り刻む。慣れた冒険者ならスライムは氷結爆弾や、氷結魔法で簡単に撃破できただろう。しかし、カレンはまだまだ新米冒険者。モンスターごとの属性相性はそんなに分かっていない。


 15分ほどの戦闘を終え、スライム3匹の討伐をする。最後の方はエンチャントが失効し、ただの鉄剣で斬っていた。倒したスライムの破片を拾い、その場で錬金術の魔方陣を地面に書き始める。スライムとその辺の砂と小石を魔方陣に置き、指を鳴らすと錬金が始まる。砂はガラスになり、小瓶に変形し中にスライムが収納され、小石で蓋をする。スライム入り小瓶の完成だ。カナルギウムの露店で取引をすれば、銅貨1枚にはなるだろうか。腰に付けているポーチにしまって、森の奥地に入る。


 今回の依頼は、カリウの森奥地にあるペコの実という果実の採取だ。カリムの森にしかない果実で、ココナッツの様な食感と、桃の様な香りを併せ持つ。マニアの間では銀貨で取引され、上等なものは金貨を使用し取引される。一般的に出回っている桃が高くても銀貨12枚だということを考えると、高級果実なのは間違いない。好戦的な魔物が少なく、森の奥地に入るだけだと思われがちだが、その実収穫は大変なのである。なぜなら…


「うわ、深いなぁ」

 まずこの道中の渓谷、ここを渡る橋は設置されておらず、自力で渡る必要がある。迂回してもいいが、迂回路は追加で一日浪費する距離にある。カレンは、近くの木の根っこに魔方陣を書き始める。鞄からスクロールを取り出し、詠唱を開始する。詠唱が終わるとスクロールの羊皮紙が燃え上がり、根っこの魔方陣が緑色に光り出す。地響きを鳴らしながら根っこが急成長し、渓谷を渡るには十分な長さまで伸びた。代わりにカレンの身長の10倍はあるだろうという大木は彼の腰ほどまで縮んでしまった。錬金術は等価交換が基本、根っこの成長率と、大木の成長率を交換したのだ。


 ヨタヨタとバランスを取りながら木の根っこでできた橋を渡り切る。根っこを飛び降り指を鳴らすと、成長率が元通りになる。それを見届け、隠れみの布を羽織る。自身から出る魔力を、極限まで抑える布で、この先にいる動物をやり過ごすのには必需品だ。樹木を観察すると、樹皮が齧られている。子の奥地に生息していて、この森で唯一人間に対して縄張り意識の強い動物、ペコジカの縄張りに侵入する。


 ガサガサ! と、草木をかき分ける音が聞こえ、カレンは木の陰に息を潜める。オスのペコジカの縄張り巡回に遭遇した。彼らは木の皮を齧り、樹液の出具合で縄張りがどれだけ持続しているかを確認する。樹皮を削るガリガリゴリゴリという音が木の幹を通して聞こえる。群れで生活するペコジカはオス数頭のグループで縄張りを巡回するので、気が付かれてはいないものの、周りを彼らに囲まれるような構図になった。立派な角は年に一度生え変わり、その度に分かれ目が一つ増えてゆく。自然に生え変わる事もあれば、リーダー権を巡ってぶつかり合いの中で負けた方の角が折れて生え変わる事もある。角はアクセサリーなどに用いられ、希少価値が高い。だからといって意図的に取るのはとてもじゃないが命がいくつあっても足りないだろう。明確な敵意を感じたペコジカは、鳴き声で他の巡回しているグループを緊急招集するからだ。数の暴力の前に、カレンの様な一人冒険者は圧倒されてしまうだろう。


 ペコジカの巡回をやり過ごし、ゆっくりと移動を開始する。彼らの攻撃性は、新米といえどギルドの講習で習っている。その後も、ペコジカに何頭か遭遇したが全て躱し、ついにペコの木が生えているところにたどり着いた。そこには皮が紫色のペコの実が丸々となっていた。

「あったあった。よいしょっと」

 リュックサックの中から籠を取り出す。リュックに入れても潰れないように、銅貨1枚で買った安物だが、とても重宝している。籠にペコの実を12個、目一杯つめて蓋をする。あとは帰るだけだ。が、


「おーおー、新米がご苦労なこった」

「誰!?」

「誰だっていいだろぉ? さぁペコの実を置いてってもらおうか」

「…盗賊ですか」

 盗賊は隠密に長けている。全く気が付かなかったが、迂回路を先に越し、張り込んでいたに違いない。


「そんなに隠密に長けているなら自分で採ればよかったのに。なんで僕から奪うの?」

「はっ、何でそんなこと教えなきゃいけねぇんだよ。さ、おとなしく出しな…」

「…わかった」

 カレンはカバンを降ろし、籠を出す。その中から物を取り出し、盗賊へ投げつけた。

盗賊の足取り


「この依頼を」

 カレンは依頼書を手渡す。受付嬢に契約金を渡すのを、彼は見ていた。先ほど金花の契約に銀貨を250枚も持っていかれたのに、すぐ新しい契約金のかかる依頼を受けた。当然、依頼の中には契約金(前金)が0の依頼だってあるはずだ。

(ほー、金持ってそうだな)

 彼は食事を終えてギルドを出たカレンを見て、受付嬢に話しかけた。


「嬢さん、さっきの冒険者はぁ…どんな奴なんだい?」

「ドアク様、彼は新米の冒険者です。どうかなさいましたか?」

「新米ねぇ、の割には金持ちじゃぁねぇか」

「…さぁ。 わたくしはそちらは管轄外ですので」

「あの新米はどこに行くんだい?」

「ギルドの守秘義務により教えられません」

「ちぇ」


 ギルドを出て大市場に行くとカレンを見つけた。彼は商人から個人的に依頼を受けている様で、

「ではカレンぼ… ゴホン、カレンさん。ペコジカの齧った木から樹液の採集、お願いいたします」

「まっかせてよ! じゃあ行ってくるね!」

(ペコジカってことは…カリウの森だな。へっ邪魔して金品ぶんどってやるぜ)


 馬車の停留所から少し離れたとこで荷積みを終えた貨物馬車がカリウの森方面へ出発する。通常の馬車は二頭で引っ張るが貨物馬車は四匹。速度が圧倒的に違う。彼はこっそり忍び込み、一足早くカリウの森へと向かったのだった。

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