第八話 光る万年筆と、画像検索(アナログ)作戦
文乃は迷いなく命じた。
「ガルドさん! 王立騎士団を全員、今すぐ招集してください!」
――そして、再び地獄が始まった。
図書館の大広間には、ぎっしりと並ぶ鎧姿の騎士たち。筋肉隆々の大男たちが百人も集まると、その圧迫感は凄まじい。だが、彼らの顔色はまるで断頭台へ引かれる罪人のようだった。
「ま、まさか……また本の仕分けじゃ……」
「俺はもう、背表紙を見るだけで吐き気が……」
一人が脱走を図ろうとした瞬間、ガルドの怒号が飛んだ。
「逃げるな馬鹿者ども! これは魔女と恐れられる民を救い、国を守るための任務だ! それでも逃げ出すというなら、今すぐ鎧を脱いで去れ!」
その一喝に、騎士たちの瞳に覚悟の光が戻る。
「……民を守るのが、騎士の務め!」
「そうだ、本の虫になるくらい何だ!」
「もう怖くないぞ!」
悲壮な決意と共に、捜索が始まった。塔のように積まれた歴史書の山。文乃は騎士たちが運んでくる本を片っ端から開き、驚異的な速度で内容を精査していく。
「……ダメ、効率が悪すぎる」
数十分後、文乃は手を止めた。額に滲む汗を拭う。古代文字を読めるのは彼女一人。これでは間に合わない。焦りが滲み始めたその時、レオネルが口を開いた。
「文乃。全部を読む必要はない。必要な『単語』を君が挙げてくれれば、我々がそれを手掛かりに文字の形を探し出す。そうすれば、関係する書物を絞り込めるはずだ」
文乃は目を見開いた。
「……なるほど。画像検索のように、文字の形を照合するということね」
文乃はすぐさま机上の羊皮紙に手を伸ばした。
「必要なのは……『麦角』『中毒』『黒い変色』……」
古代語でその単語を書こうと意識を集中させた、その瞬間だった。
――パチンッ。
空気が弾けるような音がして、文乃の手の中に光り輝く一本の万年筆が現れた。まるで星の欠片で作られたような、淡い青い光を纏う美しいペン軸。
「なっ……!? い、今のは……!」
驚愕に目を剥く騎士たちをよそに、文乃は不思議と落ち着いていた。掌に馴染むその感触。これは私の意志に応える、私だけの武器だ。
(これってもしかして、異世界転移物につきもののチート能力!?)
ペン先が羊皮紙に触れる。すると、今まで書いたこともない複雑な古代語が、頭の中から湧き水のように溢れ出し、スラスラと美しい文字列となって刻まれていく。レオネルが呆然と呟く。
「……これは、奇跡か……?」
文乃は無心で書き上げた羊皮紙を掲げた。
「これが手掛かりです! この文字の形と同じ記述がある本を、探してください!」
「総員、掛かれぇッ!」
ガルドの号令と共に、騎士たちが一斉に散る。
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