第四話 本の楽園はブラック企業!? 救世主のビジネス交渉
文乃の思考が停止した。隣を見ると、ガルドもまた口を半開きにして固まっている。彼にとっても初耳の衝撃だったらしい。
「そ……それだけの理由で、一国の文化が?」
「うん。『リナの胸は最高だった』なんて感想を息子に読まれるのが、死ぬほど嫌だったらしい。結局、妻である王妃には筒抜けだったようだけどね」
文乃とガルドは顔を見合わせ、同時に深く、深い溜息を吐き出した。
「くだらない……」
「……俺たちが命を懸けて守ってきた王家の秘密が、そんな……」
ガルドが膝から崩れ落ちそうになっている。一国の歴史が、一人の男の「黒歴史隠し」のために断絶したという事実に、文乃も眩暈を覚えた。
「――さて、文乃。感傷に浸る時間は終わりだ」
レオネルの表情が、不意に為政者のそれへと引き締まった。
「君に解決してもらいたい緊急の課題がある。現在、王国内で頻発している原因不明の災厄――人々が『魔女の呪い』と呼ぶ事態の解決策を、この図書館の古文書から最優先で探し出してほしい」
王国の危機。重責に背筋が伸びるのを感じながら、文乃は好奇心という名の火を灯した。
「わかりました。まずは情報の整理から始めます」
彼女は気合を入れ直し、一番近くの本棚へと向き直った。しかし、一冊目の背表紙を読んだ瞬間、その動きが止まる。『王国・建国史』。その隣には『保存食の世界』、さらにその隣には『世界の花々』と『貴族のメイク術』が並んでいた。
「……殿下。どうして歴史書の隣に料理本が?」
「どうしてって……。僕たちは文字が読めないんだ。内容がわからないのに、整理整頓などできるはずがないだろう?」
文乃は仰ぎ見るような巨大な書架を見上げた。何万冊もの蔵書が、ジャンル無用でシャッフルされている地獄の光景。
「……不可能です。砂浜でコンタクトレンズを探すようなものです!」
「こんたく……? よくわからんが、とにかく難しいのだな?」
「いいえ、不可能です! まずはこの図書館全ての『分類』と『整理』をやり直さなければ、仕事になりません!」
文乃は決然とレオネルを見据えた。
「殿下。助っ人をお願いします。できるだけ体力のあり余っている、力自慢の方々を」
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