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【書籍化】図書館の魔法は静かに始まる【一巻分完結済】  作者: はれはる
幕間 赤髪の王女sideレオネル

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第十七話 魂の叫び、そして秘められた独占欲

 そんなカイルをみて文乃の表情も自身がついた嘘で弱っていくカイルを見て、罪悪感で徐々に曇り始めていた曇り始めていた。

 

「……殿下。あの方、今日もどこかへ発たれたのですか?」

 

古文書から顔を上げた文乃が、ポツリと呟く。その表情は、日に日に暗くなっていく。

 

「……ああ。今度は北の鉱山に『時渡り燕』の伝説を追いに行ったらしい」

 

私の答えに、文乃は持っていたペンを置いた。

 

「……もう、やめましょう。あんなに真っ直ぐな方を、嘘で振り回し続けるのは、胸が痛みます」

 

 彼女のその言葉に、私は何も言い返せなかった。 カイルがボロボロになればなるほど、私たちの共有する「秘密」は、小さなの優越感から、喉を焼く劇薬へと変わっていく。

 図書館に差し込む穏やかな陽光の下で、私たちは二人きり、静寂を共有している。本来なら望んでいたはずの光景だ。それなのに、話題に上るのはいつも、ここにはいない男のことばかり。

 ボロボロになっていく親友。それを見て心を痛める彼女。そして、その中心で「嘘」の糸を握りしめている、度し難いほど臆病な私。

 深夜、王宮の回廊で偶然見かけたカイルの背中は、かつての自信に満ちたものとは程遠かった。壁に手をつき、疲れ果てた足取りで自室へ戻る彼は、暗闇の中でひどく小さく見えた。いっそ、今ここで彼を呼び止め、すべてを打ち明けてしまった方がいいのではないか。


「あの王女は幻で、正体はいつもお前が会っているあの司書だ」と。そうすれば、彼はこれ以上無意味な旅で身を削ることも、存在しない宝を求めて彷徨うこともなくなる。

 

 しかし、もし真実を知れば、カイルはどうなる? あいつのことだ、きっと驚いた後に、これまで以上の熱量で彼女を愛するだろう。幻の王女ではなく、血の通った、知己である「文乃」という少女を。そして彼女も、自分のためにここまで泥を被り、ボロボロになった男の献身を知れば、その心は抗いようもなく彼へと傾くのではないか。その二つの想いが私の中で激しく衝突し、私を立ちすくませる。

 結局、私は闇に消えていく親友の背中を見送ることしかできなかった。

 

 そして、約束の日。大広間の重い扉を押し開けて現れたカイルは、見る影もなく憔悴していた。服は裂け、頬には消えない傷跡があり、その指先は岩場を這いずり回ったのか、痛々しくひび割れている。 だが、その瞳に宿る炎だけは、出会った時よりも激しく燃え盛っていた。

 カイルは文乃の前まで歩み寄ると、力なく、けれど潔くその場に跪いた。その手には、何も握られていない。

 

「……すまない。約束のものは、何一つ用意できなかった」

 

 絞り出すような声に、文乃が息を呑む。 カイルは悔しげに拳を床に叩きつけ、血の滲むような想いで叫んだ。

 

「世界中を、地獄の底まで探し回ったが……俺の力不足だ。だが、頼む! あと少し、もう少しだけ時間をくれ! 空に浮かぶ島も、時間を渡る燕も、この世にあるなら必ず俺が見つけ出してみせる。俺のすべてを賭けて、君をその運命から解き放ってみせるから……!」

 

 嘘偽りのない、魂の叫びだった。存在しないものを求めて、彼はなおも自分の命を削り続けようとしている。その無謀なまでの誠実さは、冷やかしや下心など微塵も感じさせない、本物の「愛」だった。

 大広間の空気が、彼の熱に当てられたように震える。  隣に立つ文乃の肩が、激しく震えているのがわかった。彼女の視線は、カイルの傷だらけの手を、そして泥にまみれた背中を、赦しを乞うような悲痛な眼差しで見つめている。

 

(……限界だ)

 

 私は確信した。彼女の優しさは、もうこの沈黙に耐えられない。カイルのあまりに真っ直ぐな光が、私たちのついた「身勝手な嘘」を、無慈悲に暴き出そうとしていた。

 文乃が、耐えきれないように一歩踏み出した。

 

「カイル様、顔を上げてください。……私、あなたに謝らなければなりません」

 

「私は……本当は、伝説の王女などでは……」

 

 文乃が眼鏡を取り出し、変装を解こうとした、その瞬間だ。

私は柱の陰から、鋭い咳払いを一つ落とした。


「ゴホンッ!」

 

 ビクリ、と文乃の肩が跳ねる。彼女が私の方を振り返る。私は誰にも気づかれないよう、首を横に振った。そして口パクで告げる。

  ――言うな。今、ここで正体を明かせばどうなる?国中を巻き込んだ騒動の犯人が、ただの図書館司書だったと知れれば、彼女は国民からの非難を浴びるだろう。カイルだって、大勢の前で道化にされたと知れば傷つくはずだ。

 ……というのは建前だ。本音は違う。言わせたくないのだ。彼女の正体が、あの地味で愛おしい文乃であることを、カイルに知られたくない。「赤髪の王女」の正体を知っているのは、世界で私一人だけでいい。私の意図を汲み取ったのか、文乃は唇を噛み締め、眼鏡を握りしめたまま踏みとどまった。そして、とっさに別の嘘を紡ぎ出した。

 

ここまでお読みいただき、

本当にありがとうございます!

本作は6月末まで、

一気に完結に向かって毎日投稿予定です。


「続きが気になる!」「一気読みしたい!」

と思ってくださった方は、下にある

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