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第一章 渡良瀬純とそのつがい 七

純の住む神苑町は、かつて温泉街として栄えていた。総面積のそんなに広くない、とても小さな町なのだが、この土地の地価ちかはレガリアの登場以降、異様なまでに高騰こうとうした。

一九九九年七月、突如として神苑上空に出現したレガリアは、当初、魔王襲撃の前触れとして人々の話にのぼった。

むろん、そんな展開はついぞ来なかったのであるが、レガリアは思わぬ形で町政ちょうせいに甚大な影響を及ぼした。

レガリアが登場してからというもの、土地そのものの魔力が格段に上がったのである。東京、大阪、京都など、もともと霊格れいかくの高い場所と同じくらいの魔力が、神苑の地を取り巻いたのである。

ゆえに、神苑は「第一級霊域特区だいいっきゅうれいいきとっく」に指定された。

なお、霊域特区とは、「膨大な魔力を秘めている区域」の意とされている。


純はふいに体があたたかくなるのを感じた。晩秋の山の中だというのに、春のような暖気を肌にこうむったのだ。

「あれ、さむくない……? なんで?」

きょろきょろとあたりを見回したが、当然ながら、ここには暖房器具なんて気の利いたものはない。

しかし、確かに感じるのだ──暖かな空気を。冷気を通さぬ不可思議な力を。

「術を使って俺たちのいる一帯の気温を上げた」

月世が端的たんてきに説明した。

それを聞いて、純はきらきらと目を輝かせ、

「つきよさんって、すごいな……! そんなことができるんだ!」

と言った。本心から出た言葉だった。

純はあらためて、「天宮月世」と名乗ったその男の顔を見据えた。彼のかんばせは、実家の近所に観音像かんのんぞうのように優美で穏やかだった。

「さあ、早く帰るぞ。おまえの親御さんやおじいさま、おばあさまが心配なさっているのでな」

「うん!」

すっかり元気を取り戻した純は、飛び上がるようにして立ち上がり、そして、差しのべられた掌に右手を添えた。

──と、そのときだった!

「うわーっ!」

電撃のように凶暴で、凶悪で、凄絶せいぜつで、かつ物狂おしい感覚が右手を通じて全身に行き渡った。神経という神経を焼き切りそうな、とてつもなく乱暴な感覚が、純の体全体を一瞬の間駆け抜けていったのである。

純は思わず、月世の手を離した。

驚いているのは彼も同じらしく、「信じられん」と言いたげな目つきで、たじろぐ純を見下ろしている。

「おまえ、いまのは……、」

彼は言った。

そして元の表情に顔を戻すと、

「そうか」

と、感慨深げに呟いた。

「なるほどな……。おまえが俺の運命か」

純は目をぱちくりさせた。

「運命」という単語なんて初めて聞いたものだから、どう返事をすればよいのかわからなかったのである。

呆然と突っ立つ純を優しいまなざしで見つめながら、月世はさらに、

「──おまえが、俺の運命か」

と言った。そうして、わずかにまぶたを伏せて、

「おまえが俺のつがいなのか……」

と、ささやくような声音を場に響かせた。

黒々と澄む綺麗な瞳の中に自分の姿が収まっているのを認めた純は、

「うんめい……?」

と、小首を傾げて問いかけた。


このとき、純はまだなにも知らずにいた。

つがいたる完全男性体アルファに出逢ったことが自分の人生を大きく変えることになろうとは、ちっとも知らずにいたのである──。


【続く】

【裏話】

純は以前、電池にいたずらをして軽く感電した経験があります。

(だから、「電撃のような」という表現を取り入れてみました)

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