第五章 ひとつの結末 二
時田が命令を発した瞬間、剣崎の姿が一変した。華奢な体は肥大し、細腕は丸太のように盛り上がり、背丈が急激に伸び、下あごから鋭い牙が突き出す。
そう。
彼女は、以前、町役場の前で出会ったサイクロプスオーガに変身したのだった。
「ああ、痛かったー!」
一度大きくのびをしながら、彼女は言った。
外見こそ変化したものの、声は普段の彼女のそれとまったく同じであった。
純はすっかりたじろいだ。
「剣崎……? おまえ、一体何者なんだよ」
「あ、ボク? ボクはね、奏ちゃんと契約している幻想種なんだ。いままで黙っててごめんねーっ」
「いや、それは別にいいけど」と、純は応じる。
「ちょっとわけがわかんねえから説明してくれよ。なにがどうなっているのか、おれにはさっぱりだぜ」
「うん、わかった」
単眼の女巨人は明るく微笑みながらそう告げると、みずからにまつわる話について、淡々と語りはじめた。
「実はさ、大罪厄が発生した直後、幻想種の世界と人間たちの住むこの世界が少しの間、混ざり合ってしまったんだ」
「幻想種の世界と人間界が混ざり合う……? そんなの、初耳なんだけど」
「そりゃそうだよ。この情報は、天祖さまとお付きの方々しか知らないんだもん」
「月世。おまえは知っていたのか?」
天祖を絶えず守護しつづけている天宮家の関係者ならば、この話についてすでに知らされていたのではないか。
そのような期待を込めて話しかけたのだが、月世から受けた返事はまったく意外なものだった。
「いや、俺は知らなかった」
「僕も知らなかったよ」千晴が言った。
「私もだ」正絹の言葉が続く。
純は驚きに目を剥いた。
「月世だけじゃなく、ハルさんも正絹さんも知らなかった……? そんなことがあるのかよ」
「それがあるのよ、渡良瀬くん」
品よい白猫みたいにそろりと一歩踏み出しながら、時田が言った。
「人間界と幻想種の棲む『神域』が混ざった現象は、しばらくしたら収まったわ。だけど、なぜか元の世界に戻れなくなった幻想種もいくらかいたの。そのひとりが、いま、あなたの目の前に立つサイクロプスオーガなのよ」
「そうそう、ボク、戻れなくなっちゃったんだよね。元の世界に。
……だからね、困ったボクとその仲間たちを心配した陛下がさ、ボクたちに戸籍を与えてくれたんだ。そういうわけで、ボクは人間として生活できるようになったってわけ」
剣崎の笑顔は、姿形こそ変われど、やはり屈託がない。
「じゃあさ、重ねて訊くけど、剣崎は絶対女性体じゃないのか?」
「うん。ボクは第二性を持たない本物の女性──すなわち、真女と呼ばれる存在でもあるんだよ」
「剣崎が、真女……」
呆然と突っ立つ純に向かって、剣崎がにこりと笑いかけながら言った。
「前に、『一日に一回キスしないと死んでしまう病』にかかっていると言ったでしょ? あれもちょっとした嘘なんだ」
【続く】
【裏話】
次回、伏線のひとつが回収されます。
※次回の更新は17時半頃になります。




