第五章 ひとつの結末 一
「なんてことをするんだ!」
純は星来に非難の目を向けた。
しかし、彼はちっとも悪びれない。むしろ、得意満面といった様子で純の瞳をまっすぐ見返してくる。
彼のにやけた表情に強い苛立ちを感じながら、純はさらに叫び声を放った。
「相手はなんの力も持たない、無抵抗の絶対女性体なんだぞ! 星来、おまえ、自分がなにをしでかしたのかわかっているのか」
「説教なんか聴きたくねえよ」
突き出していた右腕を元の位置に戻しつつ、星来が甲高く笑う。侮蔑と優越の入り混じった哄笑が、月の見える空の下にて冷たく響きわたる。
「ふざけたあだ名なんかつけやがって調子に乗るから、こんな目に遭うんだよ。悪いのはあの絶対女性体だっつの」
「だからといって……、いきなり術を使うことはないだろう」
月世もまた、星来に苦言を呈した。「純の言うように、剣崎さんはなんの力も持たない女の子なんだ。なのにどうして、こんな惨い真似をするんだ」
「そうだ。星来、いまのはおまえが間違っている」
正絹が厳しい口調で咎めたところ、星来の顔つきがガラリと変わった。
「親父は黙ってろよ! 貴様に俺を責める資格なんてねえぞ!」
「ああ、わかっているとも」
幾分声音を和らげて、正絹が応えた。色濃い闇のただなかにあってもそうと判別できるほどに、彼の表情は暗く沈んでいる。
「すべての元凶は私だ。幸美を愛さなければ、彼女を妻としてめとらなければ、星来、おまえを苦しめることもなかったんだ……」
「母さんの名前を軽々しく口にするな! 俺と母さんがどれだけ苦しんできたか知らないくせに」
星来が激昂する。
彼の白いおもてはいまや、醜悪なまでの憎悪にまみれていた。それはまさに、「鬼のような形相」と表現するにふさわしい、激烈な顔つきでもあった。
「俺は別にいいんだ、まだこうして生きているからな! ……だけど、母さんは、……母さんは体が弱かったんだぜ! いくら天宮家のご当主様だからって言っても、やっていいことと悪いことがあるだろうが!」
沈黙が降りてきた。
正絹をはじめ、千晴も月世もなにも言わない。弁解の言葉も吐かない。
「きっと、正絹さんたちは罪悪感を感じているんだろう」と、純は思った。「だから、星来の言葉に反論せず、ただ黙っているんだろうな」とも──。
寒風がさっと一吹きした。そのときだった。
「お取り込み中のところ悪いけど、明日美はまだ生きているわよ」
けだるげな調子で髪をかき上げながら、口を挟む者がいた。時田奏である。
「は……? だって、剣崎は星来がこしらえた魔法の弾を全部受けただろ?」
純が問うと、時田は一言、「あちらをご覧なさい」と言い、うつぶせに倒れている剣崎のほうへと目をやった。
純はそちらを見た。
月世もそちらを見た。
千晴も、正絹も、──星来もそちらを見た。
そして、
「なっ……、なんだよ、こいつ……」
星来の驚きに満ちた声が、場に響いた。
皆の視線を受けながら、剣崎がゆっくりと立ち上がる。何事もなかったように、にっこりと笑みながら……。
「な、なんだよ。なにが起こっているんだよ……!」
すっかり狼狽しきった星来には目もくれずに、時田が言った。
「さあ、明日美。本当の姿を現すのよ」
【続く】
【裏話】
朝活をするときは、ビバルディの曲をよく聴いています。
……今日はできませんでしたが。
※次回の更新は午後15時半頃になります。
※2026 4/4 誤字修正しました。




