第四章 エクストラオメガ 十四
「俺はな、報われない子どもたちを救うために行動を起こしたんだ。合意の上で異界に連れていくんだ。いまさら邪魔なんかするな!」
星来が言う。
「そうだ、僕たちは理想郷に行くんだ!」
「星来さんに手を出したら許さないよ!」
そう叫ぶと、少女たちは懐から光る物体を取り出した。
純はびくりと肩を震わせた。鬼気迫る表情で彼女らが手にしたもの──それは、ナイフやカッターなどの刃物類であったのだ!
「君たち、正気か……?」
月世が防御魔法で編み出した結界──物理攻撃や魔法攻撃を無効化するバリアのようなもの──を純の周囲に巡らせながら、問いかける。
少女たちは夜叉、あるいは羅刹のように恐ろしい顔をして、
「当たり前じゃん!」
「これが冗談に見えるかよ!」
と、口々に叫ぶのだった。
「駄目だ……。そんなことをしたら、犯罪者になっちまうぞ!」
しかし、娘たちは純の呼びかけにも応じない。
じりじりと迫ってきては、純に、月世に、千晴に、そして正絹たちにいまにも飛びかからんとする。
「死ね、私たちの邪魔をする奴らは全員死んでしまえ……!」
先頭に立っていた短髪の娘が呪詛をまき散らしながら、手前にいた純に早足で近づき、ナイフを振り上げた。
──だが。
次の瞬間、娘はその場にばたりと倒れた。
「は……?」
星来が間の抜けた声を出す。その間もひとり、またひとりと地面に倒れ込んでいく。
そうして、数秒と経たないうちに、十二名の少女たち全員が気を失った。彼女たちの表情は、一様に安らかであった。
「てめえ……、そこの雪みたいな髪色をした女!」
星来が時田をぎろりとにらむ。
「この子たちに睡眠の術をかけたな! なんてことをしてくれやがったんだ!」
「そんなにヒステリックにわめくことないでしょ」
前髪をかきあげつつ、時田が冷静に返す。
「傷つけるのは忍びないから、わざわざ眠りの術をかけてあげたのよ。私としてはあのまま戦闘に持ち込んでもよかったのだけれど、それじゃあの子たちが可哀想じゃない。だって、私に負けるのは目に見えているんだから」
「てめえ……」
星来が、目の前で餌を奪われた猛獣のように歯ぎしりをする。
彼の目は、暗がりの中でもそうとわかるほどに激しく血走っている。
「ったく、妙な女だな! おまえの心、全然読めねえぞ! そこの二人の女、おまえらのことだよ!」
「じゃあ、自己紹介をしてさしあげるわね。私の名前は時田奏。渡良瀬くんのクラスメイトにして、絶対女性体のひとりよ。一応、神能者でもあるんですけどね」
すると、剣崎が「はいはーい!」と勢いよく右手を挙げた。
「ボク、剣崎明日美! 奏ちゃんと純ちゃんのクラスメイトだよー! 星来ったん、よろしくねーっ!」
「貴様なんかにあだ名で呼ばれる筋合いはねえぞ……」
星来が剣崎の顔をねめつける。
が、対する剣崎は少しも怯えない。逆に笑顔をこさえては、
「えーっ、ボクはキミと仲良くなりたいんだけどなあ、ダメなのかなあ?」
と、明るい声音で言い返す。
「ふざけるな……!」
星来が右腕を振り上げ、剣崎のほうに掌をまっすぐ向けた。
「死ね! おまえのようにふざけた女、俺は大っ嫌いなんだ!」
魔力でこしらえられた銀色の弾丸が、剣崎に向かって二、三発放たれる。
「剣崎、逃げろ……!」
しかし、純の叫びもむなしく、打ち込まれた弾は剣崎明日美にすべて命中した。
【第五章に続く】
【裏話】
最近はandropもよく聴いています。
いちばん好きな歌は「Joker」です。
※次回の更新は12時30頃になります。
※2026 4/4 誤字修正しました。




