第四章 エクストラオメガ 十三
突如割り込んできたその声を耳で拾い上げた瞬間、純の心に光明がさした。
「ハルさん!」
背後を振り返って叫ぶ。
声のあるじ──天宮千晴は、例のごとく紫色のスーツに身を包み、三メートルほど離れた地点に立っていた。
街灯に照らされた彼の顔は、常と同じく、明るく爽やかな笑みを呈している。
「やあ、純くん。ちょっと大変そうな目に遭っているようだね」
「そうなんですよ、ハルさん。こいつら、星来の生み出した理想郷に行きたがっているみたいで……」
「みなまで言わなくてもわかっているよ。一キロ先から聴いていたものでね」
「ああ、魔法を使って?」
「そうそう、その通り。千里眼の聴覚バージョンともいえる魔術を少しばかり使って、君たちの会話を聴いていたわけさ」
「相変わらず趣味が悪い奴だな……。立ち聞きしやがっていたのかよ」
星来が苦々しげな呟き声を吐く。
すると、千晴は月世の傍らにまで歩き、一本の枯れ木の近くで足を止めると、
「立ち聞きなんて人聞きが悪いな」
と、軽く兄をたしなめた。
「別に僕だって、ひとりで来たわけじゃないんだよ。協力者だって連れてきたんだ」
「協力者だと……?」
月世が訝しんだところ、千晴が一度、高らかに指を鳴らした。
「では皆、おいで」
──と。
太い幹と幹の間から、三人の人間が現れた。
ひとりは柔和な面立ちをしたスーツ姿の長身の男性、そしてあと二人は、クラスメイトの時田奏と剣崎明日美だった。
「父様……! 東京から帰っていらしたのですか!?」
いつになく驚いた顔をして、月世が問いを投げかけると、その男・天宮正絹は、
「ああ。いま帰熊したところだ」
と、小さくうなずいた。
純は義父の立ち姿をじっと見つめた。立派な仕立ての紺色のスーツを着た、その男性の佇まいを。
天宮正絹は姿勢がとてもいいためか、実年齢よりも十歳は若く見えた。声と表情には年相応の渋みと威厳が含まれているものの、威圧感や厳格な雰囲気はさほど感じられない。
彼の醸す雰囲気は、どちらかというと、月世よりも千晴に近かった。柔らかで優しく、それでいて嫌味がない。
もっとも、正絹は千晴ほど軽薄な性格ではないのであるが……。
「親父! 今頃のこのこ出てくるとは、一体どういう了見だよ!」
「星来」
正絹が、困ったように眉を下げつつ呼びかける。
「今回、私が熊本に戻ってきたのは、おまえが一連の事件に関与していると突き止めたからだ。私だって東京で遊んでいたわけではない。おまえが生きていると判明してからずっと、動きを追っていたんだ」
「じゃあ、そっちの女二人を連れてきたのはなぜなんだよ!」
「私と明日美ちゃんは、正絹さんの応援のためにここに来たの」
時田がさらりと言いのけた。
「ボクたち、強制じゃなくて、自分の意志で正絹さんと一緒に来たんだよー!」
剣崎が意気揚々《いきようよう》と答える。
「クソッ、余計な奴らがわらわらと出てきやがって……」
闇の中、星来が苦渋に満ちた表情を浮かべた。
【続く】
【裏話】
第五章にそろそろ入ります。
※次回の更新は本日の9時半です。
※2026 4/4 加筆修正しました。




