第四章 エクストラオメガ 十二
相手が星来ひとりだけならば、戦闘に持ち込んで、決着をつけることもできたであろう。
魔力を得たいま、魔術を扱えるようになったいま、純もそれなりの戦力として戦えるかもしれない。
しかしそうすれば、ここにいる子どもたちを巻き込む羽目になる。そのような事態だけは避けねばならない。集まった少女らに罪はまったくないのだから……。
だが、当の娘たちはすっかり興奮しきった面持ちで、星来をかばうのだ。
「お兄さんを悪く言うな!」
「この人だけが私たちの言葉をしっかり聞いてくれたんだよ!」
「星来さんになにかしたら、私たちが許さないからな!」
ざっとこんな調子で純と月世の両名を非難しては、星来の前に駆け寄り、彼を守ろうとするのである。
純はすっかり面食らった。
と同時に、怖じけづいた。
星来は養護施設の子どもたちを異界にさらった。
そして、いままさに、少女たちをも誘拐しようとしている。生きることに絶望している娘たちを、彼なりの方法で助けようとしている。
それは果たして、罪といえるだろうか?
彼は本当に悪人なのだろうか?
真の悪人とは、一体誰のことを指すのだろう。
(そもそも、正絹さんがお義母さんと星来を監禁しなかったら、こんな厄介な展開にはならなかった)
純はそう考えた。「悪いのは星来でなく、彼らを森の中に捨てた正絹さんなのでは」とすら思った。
星来が笑う。
自分の賛同者たる子どもたちに向かって、
「いいぜ、もっと言ってやれ!」
と叫んでは、彼女らの背後でしきりににやけている。
純は月世を見た。
彼はこくりとうなずくと、少女たちのほうに体をまっすぐ向けて、
「さきほどにも話したように、君たち雌雄展開体女性の問題を放置していた件について、謝りたいと思っている」
と言った。顔を曇らせながら放たれたその言葉は、懇願に近い響きを大いに含んでいた。
「だから俺たち大人に、もう一度だけチャンスを与えてくれないだろうか。天宮家の名にかけて天祖や法術局と連携し、君たちが暮らしやすい環境を作ってみせるから。だから──、」
「無駄だよ、そんなの」
藤色のコートを着た少女・遠野が、冷えた口調で遮った。
「私たちの気持ちはすでに定まっているの。私たちは腐り切った世界を捨てて、星来さんが用意してくれた理想郷に行くの。親もきょうだいも友達も、その他の人たちも、もうどうでもいいわ」
「そんな……」
純は片手で口を押さえた。
「おまえらはそれでいいかもしれないけど、残された側はどうすりゃいいんだ? もしかすると、おまえらが消えて悲しむ奴だってどこかにいるかもしれないんだぜ」
「それは……、」
遠野がわずかにまぶたを伏せる。迷いの表情である。
そうして、話が平行線をたどろうとしていたまさにそのとき。
「やあやあ、なんだか穏やかじゃない話をしているね」
場違いに明るい声がひとつ、純の後方より響いた。
【続く】
【裏話】
今日は寝過ごしたので朝活ができませんでした。
※次の更新は8時30分頃です。




