第四章 エクストラオメガ 十一
「養護施設にいた子どもたちを見ていると、昔の俺を思い出すんだ。親から捨てられ、見放され、家族の愛をまともに受けずに育った俺のことをな……」
「では一連の神隠し事件は、星来、貴様が単独で行なった犯行だというのか?」
月世がさらに問いかけると、星来は人を食ったような笑みを浮かべつつ、「そうだ」と呟いた。
「俺にも一応仲間はいるが、そいつは俺のやることにいまいち非協力的でさ……。だから、全部自分ひとりでやってのけたんだよ」
そして純たちが口を開くより先に、彼は、「だって可哀想だろ」と口早に言った。常に険を含んだ口調で喋る彼にしては珍しく、いささか柔らかい口調であった。
「渡良瀬、おまえはこの町を平和な土地だと見なしているようだが、実際はそうでもない。事実、おまえの知らないところで苦しんでいる奴らだっているんだ。生きている人間の全員が全員、幸せな毎日を送っているわけじゃないんだぜ」
──ああ、無知って、ほんっと怖いよなあ!
星来の嘲笑が響く。
夕空が徐々に夜空へと切り替わっていく。
街灯の明かりがぽつぽつと灯りはじめる。
純は混乱した。
自分の知る神苑町は事件事故の滅多に起こらない町で、まさに「平和」を絵に描いたような土地だった。
だけど、それは単なる主観でしかなかった。
町の片隅には、苦しんでいる人がいた。「幸せな世界」から取りこぼされた人たちがいた。望まぬ性転換を果たしたために悩む子どもたちがいた。
「だから俺は、皆を救おうとしたんだ。それのどこが悪いと言うんだ? 答えろよ。なあ、渡良瀬」
「答えられない」と、純は思った。
苦しむ人間を助ける。
救いを求める人間を救済する。
その行動のどこに非があるというのだろう。
(もしかすると、星来の言ってることやってることのほうが、正しいのかもしれない……)
そう考えたときだった。
「星来兄様。それは詭弁というものだ」
彼の言葉に強く反発する者がいた。天宮月世その人であった。
「なぜそう思うんだ?」
星来の声がいつもの刺々しいものに変わった。
対する月世はやはり、落ち着いた様子である。にらまれても凄まれても、まったく表情を乱さずにいる。
やがて、ふう、と息を吐くと、彼は星来の目をしっかりと見、そして彼に語りかけるように告げた。
「救いとは、自分自身の手でつかみ取るもの、見いだすものだ。他者から与えられるものではない。自分の道は自分で切り開くもの、自分の人生は自分自身の手で始末をつけるものだ」
「ハッ! そっちのほうがずっと詭弁だぜ!」
「そうだそうだ!」
「星来さんの言う通りだ!」
「あんたの言うことのほうがずっと詭弁だよ!」
子どもたちがめいめい騒ぎ出す。
「君たちの抱える問題──つまり、望まぬ性転換を果たしてしまった雌雄展開体たちの問題を放置していたのは、確かに社会の怠慢だ」
月世が、少女たちひとりひとりに視線を配りながら言った。
「社会を構成する一員として謝ろう。俺は完全男性体だから君たちの苦悩をあまり理解できないのだが、それでも、君たちの存在を黙殺していたひとりとして謝罪したいんだ」
「いまさら謝ってきても遅いんだよ!」
月世の顔をまっすぐにらみ返しながら、日吉が叫んだ。
園内の明かりがすべて灯る。
夜が到来したのだ。
【続く】
【裏話】
実はこのお話には、プロトタイプと呼ぶべきバージョンがあります。
そのお話を感想サービスをやっている個人の方に読んでいただいたところ、
「キャラクターも世界観もいいけど、深掘りが足りない。全体的に惜しい感じです」
と言われたので、最初から書き直すことにしました。
このお話はそういう経緯を経て生まれたんです。




