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第五章 ひとつの結末 三

「ボクは幻想種だから、人間に定期的に魔力を分けてもらわないと、この世界にとどまっていられないんだ」

「なんで?」

純が質問を返すと、剣崎は、ふ、と息のみで笑った。彼女にしては珍しく、どことなく感傷的な、陰のある笑み方であった。

「詳しい理屈はまだ解明されていないんだけどね、ボクたち幻想種は、粘膜接触を通して人間に魔力を分け与えてもらわないと、やがて死んじゃうんだ。だから、奏ちゃんにお願いして、一日に一回キスしてもらっているわけ」

「その代わり、明日美には私のしもべとして働いてもらっているの。この子の腕力はとても強いし、魔法だってそれなりに扱えるから」

時田が説明を加える。

「私にとっては不本意なキスだわ。だけど、明日美が──私の数少ない友人が死ぬのを見るのは忍びないから、毎日この子と唇を重ねているの」

そして彼女は遠い目をして、「……本当は、私、別の人とキスしたいんだけどね」と呟いた。

と。

そこへ、

「おい! 俺を無視して話を進めるな!」

と、鋭い怒声どせいを放った者がいた。星来が会話に割り込んできたのだ。

「たかがサイクロプスオーガくらい、この俺の魔法で……、」

星の瞬く夜空の下、星来が再度右腕を突き出したところ、

「──黙りなさい」

時田が星来に冷たい一瞥を与えた。

と同時に、星来の体が宙に浮き、しまいには後ろに吹き飛んでしまった。

「……っ!」

枯れ葉を落とす巨木きょぼくに衝突したショックが相当響いたのだろう。星来は桜の木に背中をぶつけたあと、ずるりと地面に身を落とした。

「てめえ……、マジで一体何者なんだ? にらみをきかせただけで、俺の体をぶっ飛ばすなんて、そんな魔法が使える奴など見たことねえぞ!」

すると、時田はくすっと微笑み、こう告げた。

「ええ。いい機会ですから、お答えしてさしあげるわね。私も天祖陛下から戸籍を頂いた者なの。つまり、『時田奏』という人物は、この世にはもともといなかったのよ」

「は……?」

純はすっかり仰天した。

「なに言ってるんだよ、時田。おまえはおれのクラスメイトで、絶対女性体オメガだろ? ほんと、なに言ってんだよ」

「驚かせてごめんなさいね」すまし顔で、彼女は言った。

「私の真の名前は、奥村塔子おくむらとうこというの。歴史の教科書に掲載されていたあの日記を書いたのはね、他の誰でもないこの私なのよ」

「え……」

純は言葉を失った。

「君があの奥村塔子さんなのか……?」

「まさか、そんな……」

「信じられん」

月世と千晴、そして正絹もまた、驚愕の表情をもって時田の顔を見据える。

「信じてはもらえないかもしれないけど、私こそが奥村塔子なの。証拠をお見せすることは、残念ながらできないけれど」

彼女はうっすらと笑みながら、続きを述べた。

大罪厄だいさいやくが発生したあと、ただひとりこの世界に残された私は陛下に保護されて、あの方のお側役に任命されたの。だから、私の名は法術局が保管している魔術師名簿には記載されていないわ」

時田がそこで一度、軽く息を吸った。


夜がいよいよ深まっていく。


【続く】

【裏話】

前々からネット小説大賞に応募するのが夢だったので、この小説を投稿しました。

かなりニッチな話なので書籍化されることは、絶対にないと思いますが……。

(その前に私の実力がまったく足りていないので、入賞もできないと思う)


※次回の更新は21時以降になります。

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