第四章 エクストラオメガ 十
まばゆい光が生じた瞬間、星来の腕がようやく離れた。
そしてそのすぐあと、彼の口から不穏な声が漏れる。「てめえ……。俺に非接触の術をかけやがったな」
「なんだよ、それは……」
暮れゆく空の下、回るレガリアを顧みることなく、純は星来に問いかけた。触れられた肩にこびりついた体温が気持ち悪くて、「早く風呂に入ってこの感触を落としてしまいたい」と考えながら、そう告げた。
「非接触の術とは、文字通り、他人からの接触を拒絶できる魔法だ」
大股で純の傍らへと歩み寄りながら、月世が言った。彼の声は元の落ち着きをすっかり取り戻していた。
「おまえが相手を『望まぬ相手』だと認めた場合、そいつの接触を拒否することができる──それは、そういう魔法だ」
「へえ、便利なものだな」
「俺からしたら、すっげえむかつく術だけどな」
星来が鋭いまなざしで純をにらんでくる。
「いまの術の影響で、ちょっとばかし火傷を負ったようだし……。ああ、忌々しい。渡良瀬がエクストラオメガなんかになる前に、さっさと殺しておくべきだった!」
「えっ。なんで、おまえがそのことを……」
「心が読めるからさ」
純の発した問いかけに、星来が言葉をかぶせてくる。
「俺はな、読心魔法の使い手なのさ。だから他人の心の中にある感情や記憶を読むことができるんだよ。まあ、すべて読めるわけじゃねえけどな」
「星来」
厳しい表情で、月世が名を呼んだ。
「どうして、この娘たちを理想郷などというところに連れていこうとするんだ?」
純ははっとした。
そうだった。
そもそも、彼女たちがここを訪れたのは、「理想郷」とやらに連れていってもらうためなのだった。現に、さきほど少女らが口を揃えて語っていたではないか。「星来さんのもとへ、そして理想郷へ僕らは行くんだ」と──。
「そんなに知りたいのなら教えてやるよ」
空の片端が暗くなる。
「へへっ」と下品な笑い声が、星来の唇からわずかに漏れる。
「ここにいる女の子たちは、性転換後、親に虐待されるようになったり、友達からいじめられたりするようになった雌雄展開体たちだ」
「……そうなのか?」
純は目を丸くする。
「ああ、そうだよ。こいつらはかつての俺のように、辛くて苦しい目に遭っている。それでも頑張って生きている。
だから俺はこいつらひとりひとりと話し合って、俺の世界に招待することにしたんだ」
「異界に連れていくというのか?」
月世が問うと、星来は「まあな」と肯定の返事を返した。
「天祖も政府も法術局も、雌雄展開体女性の問題を放置しているだろ? 望まない性転換をしてしまった人間への救済策など、まともに考えちゃいねえだろ? だから俺が助けることにしたんだ」
「では、ついでに尋ねるが。
児童養護施設にいた子どもたちをさらったのも、星来、おまえの仕業なのか?」
「『さらった』とは人聞きが悪いな」
彼は否定をしなかった。
【続く】
【裏話】
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