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第四章 エクストラオメガ 八

日が暮れて、「さて帰ろうか」と月世が誘いをかけてきたそのときだった。

制服、あるいは私服を着た少女たちが、ぞろぞろと群れをなして、公園の敷地内に入ってきた。年齢は十二歳くらいから十八歳くらいまでと様々であったが、このとき園内に来た者はすべて、性転換した雌雄展開体ベータ──いわゆる「雌雄展開体女性ベータフィメイル」であった。

しかし、なにより純の気を引いたのは、彼女らの暗い顔つきだった。まるで死地しちに赴く兵士のように深刻な表情を、全員が浮かべているのだ。

これはなにかある。

そう考えた純は、月世に目配めくばせをした。彼も異様な空気を嗅ぎ取ったらしく、すぐさまうなずきが返ってきた。

二人、急いで足湯を出て、集団で歩く子どもたちのほうへと駆け寄る。

だが、当の本人たちは、純の抱える心配などどこ吹く風といった調子で、園内の奥へと早足で歩いていくのだった。

純は走った。月世も走った。揃って息を切らし、無言で歩く少女たちの後を追った。彼女らに追いつくまでに要した時間は、正確には計測できなかったが、かなりのときを要したように思われた。

「あのさ……。どこに行くの?」

彼女らの警戒心を刺激せぬよう、きわめて親しい口調を作って、純は少女のひとりに問いかけた。彼女の顔の近くには、「日吉水都ひよしみなと。第二性は、雌雄展開体ベータ。魔術適性なし」という文字が表示されている。

「なにって……。あんたには関係ないだろ」

そばかすの浮いた頬が印象的なセーラー服姿の娘──日吉水都は歩みを中断すると、鋭い目をしてそう告げた。

彼女の背丈は純とほぼ変わりない。

ということは、日吉の身長はおそらく、百六十センチ前後といったところであろう。

「じゃあさ。ちょっと質問するけど、なんでこんな遅い時間にここに来たんだよ? もうすぐ日が暮れちまうぜ。親御さんが心配するだろうし、早く帰らないと……」

「心配なんてしているわけないよ」

日吉の傍を歩いていた少女が、口を尖らせつつ、純の言葉を遮った。藤色の厚手のコートを羽織っている彼女の名は、遠野智景とおのちかげといった。第二性はやはり雌雄展開体ベータで、魔術適性はなかった。

「私たち、これからあの人に会うんだから……。邪魔しないでくれるかな」

彼女が言葉を発した瞬間、公園の奥を目指していた集団が、前もって示し合わせていたかのようにぴたりと足を止めて、純たちを振り向いた。彼女らの視線は、凍てついた氷のように硬くこわばっていた。

純はびくついた。

けれど、心のうちに残っていた勇気をなんとかかき集めると、意を決して、

「あの人って、どこの誰だよ?」

と問いかけた。およそ十名分もの視線を浴びて怖い思いも確かに味わったのだが、そんなことより彼女らの醸す暗い雰囲気が気になったので、声を出したのである。

「ふん、知らないのなら教えてやるよ」

日吉が鼻を鳴らして、言った。「僕たちはこれから、優しいお兄さんのもとに行くんだ。親やきょうだいなんかよりもずっと優しい人のもとにね」

「お兄さん……? そいつの名前はなんと言うんだ?」

純から少し離れた位置に立っていた月世が、落ち着いた声で疑問の声を投げかけた。

すると、日吉が一瞬、少女たちひとりひとりの顔を見やって、──そして、続きを口にした。「僕たちはこれから、天宮星来さんのもとに行くんだよ」と。「冷たいこの世とおさらばして、星来さんの作った理想郷で暮らすんだ」と……。


「理想郷……?」

純が同じ言葉を繰り返したところ、少女たちはこくりとうなずいた。


彼女らの視線は、冷たく凍ったままだった。


【続く】

【裏話】

私は朝活が好きです。最近の起床時間は午前三時くらいです。

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