第四章 エクストラオメガ 六
照り映える夕日に目を細めながら、純は、
「なーんか腑に落ちないんだよなあ……」
と、ひとりごとを呟いた。
放課後迎えに来た月世に連れられて、希ヶ丘記念公園内の足湯に立ち寄ったときの話である。
そよ吹く風に揺られ、たぷりと波打つ温水をつま先でかき混ぜる。現在の気温は十度以下だが、月世が魔法をかけてくれているおかげで、さほど寒さは感じない。
「なんのことを言っているんだ?」
浮かない顔で考え込む純を見かねたのだろう。月世がずいと身を乗り出して、質問してきた。
それに純は、「うん、おれ思うんだけど」と前置きをしてから答える。
「新聞とかネットとかで調べたんだけどさ、ここんとこ、行方不明の子どもが増えているんだって。この町の子どもだけじゃなくて、町の外の子もいなくなってるそうなんだ」
「なるほどな……」
月世が一度うなずく。
「俺もその話は聞いた。おまえと同じように、いくらか調べたりもしたんだ」
「なんで子どもだけがいなくなっているのか、月世、わかるか?」
「いや、残念ながら俺にはわからん。よほど強力な術者か幻想種が関わっているのだろうな。魔力の跡を探知してはいるのだが、それらしきものがまったく引っかからんのだ」
「そっか」
純は足先で湯水を大きくかき混ぜた。
ほどよいぬくみが素足を通して全身に広がり、日頃の疲れを瞬く間に癒やしていく。
「月世ほどの魔術師が苦戦しているなんて、相手は相当な手練れなんだろうな」
「そうだな」
そして、二人は沈黙した。
赤く染まった空を背景に、レガリアがゆっくりと動いている。乳白色の彩りを神苑の町に投げかけては、並び立つ建物を、細い道路を、枯れ葉を落とした樹木をまばゆく浮き立たせている。神々しさすら感じさせるほどに美しい景色が、いま、純の心を激しく燃え立たせている──。
理由ならば説明できる。
月世とキスしたせいだ。彼の誠実な愛情を体と心に刻まれたせいだ。愛するつがいと唇を重ねたせいだ──。
合意の上でくちづけを交わし合ったあとだから、断言できる。「おれは月世を愛している」「月世にキスされたことを喜ばしく思っている」「世界でただひとりのつがいと愛し合えたことが嬉しくてたまらない」と……。
男性として暮らしていた当時は、まさか、月世に恋するなんてありえるはずがないと考えていた。彼のことを慕っていたのは確かであるが、それはあくまで年の離れたきょうだいに抱くような、無垢で素朴な愛でしかなかった。
けれど、彼との睦み合いをみずから選択したいま、愛が恋に変わってしまった。血の繋がらぬ兄みたいな存在としてではなく、ひとりの男性として受け止めるようになってしまった。
もしかすると、これはある意味、不幸な展開なのかもしれない。性転換を遂げたということは、「特殊な方法を用いないと男には戻れない」ということでもあるのだから。
だが、純は「それでもいい」と思った。「二度と男に戻れなくてもいい。それよりも月世とずっと愛し合っていたい」とも考えた。
ゆうべの記憶を思い起こすだけで、体の芯がずくずくと疼いてくる。
これは欲か、それとも愛か。
自分でも判断しかねるが、それでも純は、「天宮月世」という高潔な魂に惹かれた。
本能に導かれた繋がりではあるけれど、いまの自分にとって、彼の存在はレガリアよりもずっと必要なものであったのだ。
【続く】
【裏話】
次回の更新は21時以降になります。




