第三章 悪意 十三
話を始める前に、僕からひとつお願いがある。
いまから語るエピソードは家の者以外の人間には内緒にしてほしいんだ。できる?
……いい返事だ。ありがとう、純くん。
じゃあ、始めるね。二度と話すことはないかもしれないから、しっかり耳を澄まして聞いてほしい。頼むよ。
僕たちが生まれる前、──西暦二〇四〇年代、すなわち、父さんがまだ若かった頃の話だ。
当時、完全男性体だけが入学できる豊麗舎という教育機関に通っていた父さんには、一族の定めた相手、つまり婚約者がいた。父さんも相手の方も完全男性体だったから、魔術で子をなす予定だった。
だけど……、父さんは男と結ばれるのを拒否した。そして、少し離れた町に住んでいた、女性化した雌雄展開体を「私の妻にします」と言って、一族の者に紹介をした。
分家の連中はもちろん、猛反対をした。父さんの前の代にあたるご当主とその妻はすでに他界していたから、彼らからの反対はなかったけれど、生きていたら分家の人間のように拒絶反応を示したかもしれない。
で、それはひとまずさておいて──。
父さんは、その女性と結婚した。周囲の反対を押し切っての結婚だった。僕たちの父さんは若くして法術局の要職に就くほどの実力の持ち主だったし、天宮家の当主も務めていたから、分家の者たちも仕方なく受け入れることにした。
だけど、「これが悲劇の始まりだった」と僕は思う。
僕と月世がこの世に生を受ける五年前、星来は誕生した。雌雄展開体だった母さんのお腹の中から生まれたんだ。彼は母さんの血を濃く受け継いだ自分を誇りに思っていた。僕たち双子にも、事あるごとに「俺は母さんの子だから」と言ってきたくらいだった。
でも、またしても分家の人間たちは文句を言ってきた。由緒正しい天宮家に雌雄展開体が存在することがおぞましい──彼らは口を揃えてそう言い、僕らの母さんと星来に辛く当たった。
そして……、分家の者たちからの嫌がらせはエスカレートしていった。ターゲットは、雌雄展開体の血を引く母さんと星来だった。どんなことを奴らがしてきたのか詳細は省くけど、とにかく、母さんと星来はしつこいくらいに嫌がらせを受けた。
だから、父さんは一族の者を屋敷に集めて、こう言った。「私の妻と星来は離れに閉じ込める。もう二度と外の世界には出さないから、それで手打ちにしてくれ」ってね。
僕は驚いた。月世も驚いた。
だって、相手は家族だよ? なのに、父さんったら、真顔で「家族を離れに閉じ込める」なんて言ったんだよ? 正気を疑って当然じゃないか。
だから僕と月世は父さんに抗議した。「母さんと星来の自由を奪わないでほしい」と、何度も懇願した。
けれど、父さんはその声を無視した。しかもあろうことか、……母さんを、僕たちの母さんでもあった人と星来を人里離れた森の中に捨てたんだ。
正直な話、「父さん、気が狂っちゃったんじゃないかな」と思ったね。だって、ある日突然婚約を破棄したうえに、奥さんになる人を連れてきて、一族の反対を押し切って結婚までして……。
なのに、その人と実の子を離れに閉じ込めて、あげくの果てに森に捨てたんだもの。怒りを覚えて当然だろ?
だから、僕はいまでも父さんのことを許していない。
あの人のことは一族の恥だと思っているよ。事件が起きてかなりの時間が過ぎた現在も、その気持ちは消えていない。
【続く】
【裏話】
このエピソードは書いていてちょっと辛かったです。
※2026 4/4 誤字訂正しました。




