第三章 悪意 十二
「星来は、『俺はこの家の長男なんだ』と言ってた。あれはほんとのことなのか?」
口早に訊ねたところ、
「そうだ」
月世が重々しくうなずいた。
「つまり、星来が真の長男で千晴が次男、俺は三男ということになる」
月世の顔をそっと見上げる。
黒真珠のような輝きを持つ二つの瞳の奥に、焦燥めいたものを認め、純はただならぬ予感を察知した。
「星来は捨て子だそうだけれど、それもほんとのことか?」
「そうだ」
「天宮家の人が森に捨てたという話も?」
口を重く閉ざし、月世がこうべを垂れる。
意外ともいえる反応をじかに目にして、純は少し驚いた。
「父様が山深い土地の中にある森に捨てたんだ。星来と……、俺たちの母様を」
「母親も?」
「そうだ」
月世が返した。
美麗なおもてに苦渋の色がにじんでいるのを目撃した純は、それ以上なにも言えなくなった。
けれど、いくら黙っていたところで会話は進まない。真実に触れようとしているいまだからこそ、勇気を振りしぼって訊ねる必要がある。
そう考えた純は意を決して、
「星来が捨てられたのは、『雌雄展開体だったから』という理由があったからだそうだけど……。でもなんで、お義母さんまで捨てちゃったんだよ?
おれ、正絹さんから『妻は死んだ』と聞かされていたものだから、てっきりそうだと信じ込んでいたんだぜ?」
「それに関しては僕も反省しているよ」千晴が言った。
「一族の秘密を隠しておきたいばかりに、天宮家の犯した罪を隠しておきたいばかりに、純くんに嘘を言ってしまった……。そのことに関しては深く反省しているよ」
「俺もだ」月世がしっかりとうなずく。
「父様の……、いや、一族の罪に加担したのは俺だって同じだからな」
あぐらをかいて座っていた純は、足を組み替えると、
「確かさ、完全男性体同士が子どもをもうけるときって、魔術で人間を造るんだよな?」
「そうだ」
月世が縦に首を振る。
「ただし、完全男性体同士が結婚した例はほとんどないんだ。そもそも、人数が少ないからな」
「うん、そうだよな。……けどさ、だったらどうして、正絹さんはお嫁さんを森に捨てたんだ? そんなことしたら、親戚の人だって黙っちゃいないだろうに」
思い出す。
絶対女性体である自分に向けられた誹謗中傷の数々を。分家の連中による意地の悪い発言のひとつひとつを。
「それはね、純くん」千晴が横から口を挟んできた。
「父さんは母さんのことを愛していたんだ。実際、僕の目から見てもすっごく仲良しだったしさ」
純はそこで、「へ?」と疑問の声を上げた。
「愛していた奥さんを森に捨てるって……。わけがわかんねえんだけど」
「それは、順を追って説明する必要があるね」
千晴が視線を投げる。純ではなく、月世に向かって。
「あの話をするのか……?」
月世が戸惑いに満ちた声で問いかける。
対する千晴はあくまで明るく爽やかに、
「いま言わなくていつ言うのさ。いつまでも隠しておくわけにもいかないだろう?」
を受け答えをする。
静寂が耳に響く。
そうして、月世がまぶたを軽く伏せたすぐあと、千晴が、
「純くん」
と話しかけてきた。それから彼は、
「いまから言う話は、あまり気持ちのいいお話じゃない。それだけはわかってね」
と言った。
純は「うん」とだけ答え、次に語られるであろう話を待った。
【続く】
【裏話】
最近コーンポタージュスープにはまっているので、朝になったら買ってきます。
(現在、午前二時過ぎなので……)
※2026 4/4 誤字訂正しました。




