表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/71

第三章 悪意 八

反射的に顔を上げた純は、その瞬間、信じがたいものを見た。星来の右腕を覆っていた禍々しい光が、たちどころに消えていったのだ。

「なっ……、だ、誰だ! 俺の邪魔をする馬鹿はどこのどいつだよ!」

かさり、と葉擦はずれの音が鳴る。

と。

時同じくして、上から星来と純たち二人の間に割り込む影があった。第三者が異界に入り込んできたのだ。

華麗に着地を決めたあと、その人物は純に背中を向けたまま、

「星来兄さん。悪いけど、この子たちには手出しをさせないよ」

と告げた。月世のそれと同等に、低くて渋みのある声だった。

「もしかして、ハルさんなのか……?」

紫色のスーツを美しく着こなしたその男の後ろ姿めがけて、純は呟きを漏らす。

すると、男はこちらをゆっくりと振り向いて、

「当たり」

と言った。惚れ惚れするほどに頼もしい表情が、彼の顔をしおのように満たしている。

にこやかに笑みつつ純たちの前に現れたその男性こそ、月世の双子の兄である天宮千晴あまみやちはるであった。

「てめえ、千晴っ……! 俺の世界になんで割り込んできやがった!?」

星来が猛犬のように低くうなる。

が、千晴はそれを意にかいさない様子だ。普段と変わらぬ素振りで口を開いては、

「いやあ、愛する弟とそのつがいさんに死なれたら、僕が困るからさ。だから来ちゃった」

などとのたまう。

純は唖然あぜんとした。

星来も小さく口を開けたまま、ぽかんとしている。

月世に至っては、あきれ顔で、

「なんて緊張感のない奴だ……」

と、ひとりごとを漏らす始末だ。

敵地に押し入ったというのに、千晴の態度は平常時へいじょうじとまったく同じであった。飄然ひょうぜんかつ堂々たる態度をいっときたりとも崩さない。というよりも、ここが敵の生み出した世界であることに、少しもおくしておらぬようだ。

純は声を上げて笑った。そうするだけの余裕がやっと出てきた。

「ハルさん、おれたちの居場所がよくわかったな。おれ、びっくりしちゃったよ」

「ああ、純くん。こんにちは」

白い歯を見せながら、千晴が笑う。

「曲がりなりにも、僕は君たちの兄だからね。ピンチになったらいつでもどこでも駆けつける気持ちを、いつも持っているんだよ。月世が攻撃魔法を不得手ふえてとしているのも、僕は知っているからね」

「……貴様に助けられるのはしゃくだな」

月世がまたしてもひとりごとめいた呟きを漏らすと、

「駄目じゃないか、月世くん。お兄ちゃんにそんなことを言っちゃ」

千晴がたしなめた。

「僕は、兄としてもひとりの完全男性体アルファとしても、君のことを応援しているんだからね。敵対者相手でもないのに、ましてや身内相手なのに、そんな口を叩いちゃいけないよ」

「しかし……」

月世がなにか言いさしたのとほぼ同時、

「ハッ!」

と、高い嘲りの声が響いた。星来が自嘲めいた笑みをおもてにさらしたのである。

「あーあ、ついてねえなあ。やっぱり千晴が来やがったか」

「うん、来ちゃった」

千晴がにこりとむ。

「呼んでもねえのに来るんじゃねえよ。……あーあ、ここで二人とも殺すつもりだったのに、すっかりきょうがれたぜ。もう今日のところはどうでもいいや。千晴は攻撃魔法がめちゃくちゃ得意だしよ」

「そうそう、ここはおとなしく引き下がったほうがいいよ」

千晴が鷹揚おうように相槌を打つ。

「クソ……。千晴、月世、そして渡良瀬! 今日のところは一応見逃してやるけどよ、次はねえと思っておきな! じゃあな!」


そして、閃光せんこうが弾けるように散った。


目の前に、見慣れた門扉もんぴが──、天宮家の重厚な表門おもてもんが現れる。

そこで純は、「やっと解放されたんだ」と悟った。


鬱蒼うっそうとした森の姿はどこにもない。

遅々たる速度で自転するレガリアのみが、青く澄んだ空に浮かんでいる──。


【続く】

【裏話】

千晴は基本的に明るいキャラなので、書いていてとても楽しいです。


※2026 4/4 文章を一部手直ししました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ