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第三章 悪意 四

白くはじけた視界が徐々に収縮し、夜の闇を映し出した。純はいつしか、光の射さぬ暗い森の中にいた。

「この感じ……、異界に招かれたときと似ている」

純はひとりごとを口にのぼらせた。

本当によく似ていた──同じクラスに籍を置く美少女・時田奏が造り出した状況に。

自然そのものは好きだ。山の中も森の中も好きだし、防波堤ぼうはていに座って海釣りを楽しむことも大好きだ。

けれど、この森からは一刻も早く脱出したかった。

たぶん、自分の勘が正しければ、ここは異界であろう。そして、あの天宮星来とかいう不遜ふそんな男が生み出した世界でもあるのだろう。

生き物の気配がまったくしない、しかし風はしっかりと吹いている森の中、純は歩き出した。念のため、腕時計で時刻を確認したが、午後四時十二分を示したまま、秒針も分針も止まっていた。

「異界に来ると、時間そのものが止まっちまうのか……?」

名も知らぬ花のけだるい香りを嗅ぎながら、純は誰に聞かせるともなく声を上げる。

──と。

「へえ、わりと勘がいいんだな。おまえ」

嘲るような響きを言葉に乗せつつ現れた青年がいた。天宮星来あまみやせいらだった。

「おまえ……! こんなところにおれを閉じ込めて、どうするつもりなんだよ!」

「さあ。一生ここでさまよったあげく、餓死してもらいたいなあとは思っているけれど」

「餓死……」

「そう、餓死。飢え死にってやつさ」

星来が笑う。

優越に満ちた微笑を薄い唇に乗せる。

「ここには食料となるものがない。飲み水もない。木の実も川もあるが、それらにはすべて人体に影響を及ぼす強い毒が仕込んである。だから、木の実を摘んで食べても死ぬし、川の水を飲んでもゲームオーバーになるって寸法すんぽうなのさ」

「ぎゃははは!」と顔を歪ませ爆笑する星来に反応するものはいない。ただひとり、純を除いては。

「あんた、マジで性格悪いな。どうせ殺すのならひと思いにやればいいだろ」

「できるわけないだろ、そんなん」

「なんで?」

「そりゃ、おまえにも恨みを募らせているからさ。さっきも言ったろ? 『俺はおまえのことが大っ嫌いなんだ』って」

「そんな……」

「そんなもクソもあるかよ」星来が言った。

「俺は天宮家の奴ら全員をぶっ殺したいんだ。地べたに這いつくばらせて、奴ら全員の頭をかかとで踏みつけてやりたいんだ。そのためなら喜んで殺人くらいするぜ」

「そんなことをしたら駄目だろう!」

しかし、星来に純の訴えは届かなかったようだ。彼はいまだ、へらへらと楽しそうに笑いつづけているのだから──。

「バーカ。おまえ、お説教なんかできる立場じゃねえだろ。俺が術を解かない限り、おまえはこの森に幽閉されたままなんだからな。てめえこそ俺の足許にすがりついて、助けを求めなくちゃいけないんだぜ? 生きて帰る方法はそれだけなんだからよ」

純は迷った。二つの考えをはかりにかけて、悩みに悩んだ。ひとつは「森を歩き回って脱出口を探す」という考え、もうひとつは「星来にすがって解放してもらう」という考えだった。

──だが、自分の頭が導き出した両方の発想を、純は拒否した。

脱出口が用意されているとは到底思えなかったし、かといって、星来に助けを求めるなんて、とてもじゃないが嫌だった。そんなみっともない真似をするくらいなら、潔くこの場で死を選んだほうがましだとすら思えた。

「さて……。どうする? 渡良瀬」

優越の笑みはそのままに、星来が問いかけてくる。


と、そのときだった。


「そいつの話を聞く必要はないぞ」

艶を帯びた男の声が耳に響いた。


【続く】

【裏話】

足場を伝って、猫が二階のベランダに来ます。それも、毎日のように来ます。

猫の運動神経ってすごいですね……。

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