第二章 一年十一組 十一
「そうよ、私はこのクラスの担任なの。よく『先生らしくない』っていう評価を受けるけど、一応、教員免許は持っているから心配しなくていいわよ」
流鏑馬先生は空いていた席に座りながらそう言うと、純に向かってウィンクをした。まったく教師らしからぬ言動であった。
「この服もねえ、校長先生から許しを得たうえで着ているんだから。だから気にしなくてもいいのよ。……あ、髪色もちゃんと許可頂いているからね」
そして、先生は、「教師が職務違反なんかしたら最悪ですものねえ」と甲高く打ち笑った。
純はすっかり面食らった。そして、「この先生を敵に回してはいけないような気がする」という感想を心のうちに抱いた。
だって、似ているのだ。どことなく。
月世の双子の兄こと天宮千晴に、なんとなく似ているような気がしてならないのである……。
(ハルさんも外見が結構派手なうえに、細かいことは気にしないたちだもんなあ)
二人の間の共通点に思いを馳せながら、純は流鏑馬先生の動きをそっと見守った。
彼女が職員室での一コマについて語り出す。
「あのさあ、最近、職員室内で流行ってるの。罰ゲームが。『負けた人が勝った人のいうことをなんでも聞く』というゲームが流行しちゃっているのね」
「……で、先生はそれに負けたんですね?」
時田が無情な指摘をする。
「そうそう、トランプで賭けをやったらあっさり負けちゃったのよ。いやあ、ショックだったわー。『今度こそ勝てる!』と思っていたのに」
「先生、賭け事はやめといたほうがいいですよ。流鏑馬先生って、思ってることが顔に出やすいタイプですもん」
剣崎もまた、無慈悲な指摘をする。
すると、流鏑馬先生は机に顔を伏せて、
「あーあ、今回は自信あったのになー!」
と嘆いた。
純はますます面食らった。
「あ、そうだ。渡良瀬くん」
突然がばりと顔を上げ、先生が話しかけてきた。
「なんですか……?」
暖房の効いた室内にて、純の声が羽音のように小さく響く。
流鏑馬先生は慣れたふうに髪をかきあげると、
「時田さんが神能者だってこと、彼女本人の口から知らされたらしいわね」
と言った。
「そうですけど……。それがどうかしたんですか?」
すると、先生は表情を引き締めて言った。「実は私も神能者なの」
「先生もですか!?」
「ええ」
流鏑馬先生が深くうなずく。
「先生はこの町の出身じゃないし、あなたたちとは違って雌雄展開体なんだけど……。一応、神能者でもあるの」
純は先生の顔をまじまじと見つめた。
彼女はやはり、真剣な表情をおもてに浮かべていた。
「こんな格好をしていても誰からも咎められないのは、そういうわけよ。私自身が言うのもどうかと思うけど、神能者って実際にかなり希少な存在だから……。だから、校内で魔術的案件が発生した場合は、私が処理を担当することになっているのよ」
──その際には、法術局の局員さんたちや、時田さんの協力も仰ぐことになるでしょうけどね。
そう言うと、先生は再び、純に向かって片目を閉じてみせた。
窓外に茂る梢が吹きつける風に煽られて、枯れ葉を散らしているのが見えた。
【続く】
【裏話】
教師が職員室で賭け事をするなんてありえないと思うのですが、「ファンタジーものだから、ギリで許されるかな~」と考えたので書いてみました。
(ちなみに、津島先生は賭け事めっちゃ強いです)




