第二章 一年十一組 十
「このクラス、なんでずっと自習ばっかなんだよ?」
昼休みに開かれた歓迎会の席で、純は朝からずっと疑問に思っていたことを口に出した。
剣崎お手製のレアチーズケーキや、時田が用意した英国製の高級クッキーをデザート代わりに食べていたときに、胸に溜め込んでいた疑念をそのままぶつけてみたのである。
部屋の中は相変わらず、少しばかり寒かった。けれど、時田が魔術を使って気温をわずかに上げたため、我慢できぬほどのさむけは感じずに済んだ。
午前中の授業は、すべて自習に置き換えられた。これにはさしもの純も仰天した。
しかし、オメガクラスではこういう事態がよく発生するらしい。惑いを隠さずにいた純に向かって、時田が、
「自学自習が流鏑馬先生の教育方針なの。わからないところがあったら、生徒同士で話し合って解決するのがいいんですって」
と言った。
その際、純は、「なんとも変わった教育方針だなあ」と胸中にて呟いた。「津島先生だったら、『私のところに直接質問しに来てくださいね』とおっしゃるだろうな」とも思った。
それはさておいて、歓迎会、もといお茶会は滞りなく終了を迎えた。
「あー、すっげえうまかった! 時田、剣崎。サンキュな」
充足感と満足感に浸りながらそう告げると、二人は、
「これからご学友となるんですもの。これくらいはしないといけないわ」
「ほんと、ほんと! 純ちゃんのためなら、こんなのお安い御用だってば!」
と、笑顔で応えた。
彼女らの態度に、作為も悪意も見当たらなかった。ただ純粋な好意のみが、彼女らの言動にあらわれていた。
(チカ……。おれ、ここでうまくやっていけるかもしれないぜ)
──と、心の中でこっそり友に語りかけたそのときだった。
ガチャリ、と鈍い音を立てて、教室前方のドアが開いた。
「いやあ、ごめんごめん! ちょっと罰ゲームを受けててさあ。それで午前中、自習にせざるを得なかったんだ。ごめんねえ、渡良瀬くん」
勢いよく駆け込んできたその女性は、後ろ手で扉を閉めるなり、大声で弁解の言葉をまくし立ててきた。
「罰ゲーム……?」
時田たちのキスを目撃したときと同じく、純は大いにうろたえた。自分でもびっくりするくらいの激しい動揺が、身のうちを瞬時に駆け抜けていったのである。
「そ、罰ゲーム。最近職員室内で流行っててねえ。『負けた人は勝った人たち全員分のジュースを買いに、四ツ峰通りのスーパーに行く』って内容だったんだけど、見事に負けちゃったわあ」
ピンクベージュのボブカットが大層似合っているその女性教師は、ケーキの包み紙に目を落とすと、
「……あ、ずるーい! 先生も食べたかったわあ」
と叫んだ。窓が震えんばかりの大きな声だった。
純は言葉を失った。
「教師たちが罰ゲームに興じている」と初めて知ったせいもある。だが、現れた女性教師の外見のほうがはるかに気になった。
スカート丈がとにかく短いのだ。剣崎よりも、時田よりも。むろん、純当人よりも。
しかも彼女は、高級感あふれる紫色のミニドレスを着用しているのである。これで教職に就いているとは、到底信じがたいものがあった。
唖然としつつ女性教師の顔を凝視したところ、彼女はふいにこちらを向いて、
「私は流鏑馬真夜。一年十一組の担任よ。よろしくね、渡良瀬くん!」
と、元気よく言った。
「えっ……。先生、うちのクラスの担任なんですか?」
驚愕に見舞われたあまり、発した声が意図せずうわずった。
【続く】
【裏話】
ビートルズの『Let It Be』も好きです。




