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第二章 一年十一組 七

今朝は予鈴よりも随分早くに、学校に到着した。一年二組の生徒たちに、みずからの口から別れの言葉を告げるため、登校時間を早めたのである。

教室に顔を出した純を見たクラスメイトたちは、まず、驚愕の表情を顔にあらわしたが、すぐに表情をあらため、気安い口調で話しかけてきた。

「とうとう、性転換しちゃったんだな……」

と、感慨深げに呟く者も何人かいた。

純は極上の笑顔をこさえると、

「気にすんなよ、おまえら! これっきりでお別れってわけじゃねえんだから!」

と、級友たちを励ました。

けれど、クラスメイトたちはこぞって寂しそうな目をして、純に視線を送るのだった。

「オメガクラスって、ここからちょっと離れたところにあるんだけど……。大丈夫? ひとりで行けるかな?」

すでに登校し終えていた親切ちかのりが、心配そうに顔を覗き込んできた。小動物めいたそのしぐさを見た純は、へらっと笑って、

「おいおい、いまさらおれに気ぃ遣うなよ。オメガクラスへの道なら、あらかじめ調べているからさ。チカが気にする必要なんか、少しもねえよ」

と答えた。

前もって十一組のある場所を調べておいた──その言葉に偽りはなかった。

県立麗門高等学校けんりつらいもんこうとうがっこうには、一般教室がある教育棟と、職員室や特別教室のある職員棟が向かい合うようにして建っていた。正門側から見て手前にあるのが教育棟、奥にあるのが職員棟だ。

そのさらに奥には第一グラウンドと第二グラウンド、体育館、部活動生の集まる部室棟があった。そのまた奥には、去年建造されたばかりのセミナーハウスがあった。古めかしい学校の中で唯一、近代的な雰囲気を感じさせる場所だ。

月世から伝え聞いたところによると、十一組のある特別棟──通称・オメガ棟は、セミナーハウスの脇にある細道を七百メートルほどまっすぐ進んだところにあるらしかった。

名残惜しそうに話しかけてくるクラスメイトたちに、純はとびっきりの笑顔を振りまいた。男子も女子も、そんな純にねぎらいの言葉をかけてきた。

だけどこのとき、純はとてつもなく緊張していた。いくばくか、不安も抱えていた。それは性転換を終えた直後からずっと続いていた。時間が経つにつれて、憂う気持ちも増していった。

──怖かった。

「できれば、このまま通い慣れた二組にいたい」と願った。その心情の裏側には、語り尽くせぬほどの恐怖心が息づいていた。

純は、級友一同の顔をじっくりと見回すと、

「おれさ……、ずっとおまえらと一緒につるんでいたかったよ。ずっとずっと、一緒にいたかったんだ」

と言った。本音に基づいた発言であった。

性別の変化と同時に、美しい容姿を手に入れた。純は美しい娘になった。

けれど、そんなものなどいらぬものだと感じた。「あのままずっと男のままでいて、こいつらとともに馬鹿なことをやりたかった」と思った。それは純当人の心に根ざす切なる望みでもあった。

だが、その希望はもともとかなわぬものだったのだ。だって、純は必ず女性化するしゅ絶対女性体オメガの一員なのだから……。

学習道具を入れた引き出しを持って、純は一言、

「じゃあな」

と告げた。

「ああ……。いつでも遊びに来いよ」

「待ってるからな」

男子たちがそう言った。

「私たちも待ってるからね」

「皆のこと、忘れないでね」

女子たちがそう言った。

「元気でな」

近くの席に座っていた進藤深雪しんどうみゆきが、そう言った。

「渡良瀬くん。なにかあったら、二組に戻ってきてもいいんだよ」

隣の席で授業の準備をしていた小林みなほが、そう言った。

「うん……。またな。また会おうな」

そうして、純は一歩、二歩と後ずさった。

寂しげに見つめてくるクラスメイトたちの視線を振り切るように、きびすを返す。

「純、いつでも来いよ!」

「待ってるからね、渡良瀬くん!」

純はそれに答えずに、教室後方の引き戸を開けた。


廊下に出るとき、友の声が背中を打った。「純、僕も君を待ってるからね! いつでもおいで!」

親切の声だった。


【続く】

【裏話】

シュレッダーを購入しました。

これで溜まっていたコピー用紙を、存分に裁断できる……!

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