第二章 一年十一組 六
「来週なんて来なければいいのに」とずっと願っていた。祈るような気持ちでレガリアを見上げながら、
「次の月曜なんて来なけりゃいいのに!」
と叫んだことも何度かあった。
けれど、時間は純の願いを嘲笑うかのごとく、無情にも過ぎていった。
月曜になった。
例のごとく、月世に送迎されて登校した純は、すれちがった級友の何人かに驚きをもって迎えられた。セーラー服を着た純を見て、──美しい娘となった純を見て、頬を赤らめる者も少なからず存在した。
彼らの反応は予想通りといえば、予想通りのものといえた。そこそこ顔のよい年頃の女の子を前にして、平常心を保てる男子など、そう多くないのが世の常であるからだ。
しかし、純は落胆した。
性転換を遂げたがゆえに、級友たちとの関係が大いに変わってしまったことが悲しくてしょうがなかった。戻れるものなら、男の体に戻りたかった。「それは無理な話だ」とわかりきってはいるのであるが、それでも、できるものなら性転換を終える前まで時を巻き戻してしまいたかった。
だが、純がなによりも恐れていたのは、月世の反応だった。女性になった自分を、彼がどう捉えているのか、どうしても知りたかった。と同時に、「知りたくない」という気持ちも生まれつつあった。
今日も今日とて、月世は女子生徒たち、あるいは通りすがりの女性たちから、ちらちらと瞥見されていた。「あの人、かっこいいよね!」とささやき合う他校の少女たちの集団もいた。
ふいに、純は怒りの感情を胸に覚えた。
月世に対してでなく、彼の顔を覗き見ている少女たちや女性たちに対して、強烈な怒りを感じたのだった。
(これは、おれのつがいだ……! 誰も奪うな!)
心の中で憎悪まじりの怒声を放った純は、そこでようやく我に返った。道ゆく少女たちや女性たちに向かって、「ごめん……」と謝った。当然のことながら、声には出さずに謝罪した。
けれど、「月世を取られるんじゃないか」と危惧したのも事実だった。それも動かしがたい事実であった。
純は我が身を恐れた。軽蔑もした。
つがいを得た絶対女性体は、性転換を完了すると、パートナーたる完全男性体に対して、強い独占欲を抱くようになるらしい。ときには、片割れを狙う女性たちに威嚇行動を取ることもあるようだ。
だが、それはあくまで、推論に過ぎなかった。
この星の上にいる完全男性体と絶対女性体は、合計しても十パーセントほどしか存在しない。そして、そのほとんどがつがいに遭遇せずに一生を終える。
だからこそ、「つがいに関する情報は、法術局でもあまり把握できていない」という噂があった。実際はどうなのか定かではないのだが、そういった話は純も耳にしたことはある。
(月世はどうなんだろう。おれみたいに、独占欲とか感じていたりするのかな)
住宅街の中にもうけられた通学路を二人で歩きながら、純は横目で月世の顔を仰ぎ見た。
けれど、湧いた疑問に対する答えを得ることはできなかった。月世はいつものように、無表情を浮かべていたのである。
純はまたまた、落胆した。
女になった今日、初めて月世に欲を覚えた。情欲と愛欲と独占欲の芽生えを、はっきりと自覚した。
だが、彼は普段と同じように、冷静に純に接してくる。呼びかけてくる声の調子にも、恋情のほどはうかがえない。
純は月世の顔から視線をはずすと、前を見据え、見えてきた正門へと瞳を向けた。
「オメガクラスで時田の奴が待っているんだろうな」と思うと、とても憂鬱な気分になった。
【続く】
【裏話】
いま、部屋の中がすごく散らかっているので、更新作業が終わったら片づけます。




