夜襲
雷の魔法、それは中々に珍しいものだと後で知った。
基本的に魔法使いは火か水の魔法を司るのが基本らしい。しかしごく稀に雷を司るものが居ると本にはそう書いてあった。
魔法は親から子に遺伝する。しかしどの魔法が連鎖するか、またどの程度遺伝するかなどは未だに解明されていない。
その中でも雷の魔法は強力な魔法であり、現在倭ノ国全体でも数人居るか居ないかとされている。
「お前ら、このことは親にも言うなよ」
よって政貴が雷の魔法を突如使ったことは即時箝口令が敷かれ、この日の練習は中止となった。
政貴の思っている以上に大事のようで、城内はそれからずっとバタバタと忙しなくなっていた。そして一時間後には両親が予定を切り上げて帰宅するのだった。
「政貴、雷の魔法を使えるようになったのは本当なのか」
たまたまお手洗いに向かっていたところを帰宅したばかりの父に捕まってしまい、肩を揺さぶられながらそう聞かれた。
「実際にご覧いただきますか?」
どこから出てきたか分からない先生がそう言ったため、一行は中庭に移動することになった。
噂を聞きつけた城内の人たちが集まり、だだっ広い中庭で政貴だけが剣を握る。
全員、安全のためか遠くで見守る中、静かに剣を振り上げた。
先ほど同じように、足先からエネルギーを大地から吸い取る。そしてそれを指先から剣先へと送り、限界まで溜めてから一気に振り下ろした。
最初と違い、今回は二回目ということで少しの慣れがあった。そのため先ほどは自分でも見えなかった雷の様子を確認する余裕があった。
振り下ろす剣先からエネルギーが溢れるように、光り輝く小さな稲妻が溢れでるように剣にまとわりつく。そして剣先が垂直を向いたところで溜めていたエネルギーを解放すると、剣先から稲妻が一気に放たれた。
文字通り光の速さで進んだ稲妻はちょうど向かいに生えていた木に衝突し、ワンテンポ遅れて帰ってきた凄まじい轟音と、そして焼け焦げるような匂いが一気に充満した。
それを見ていた人は、目の前のことが現実のこととは思えず、ただその圧巻の光景にただ立ち尽くすことしかできなかった。
一人が手を叩く。「パン、パン」と不規則に乾いた孤高の音が響き渡る。その音に釣られたのか、また一人が「パン、パン」と音を鳴らし、それが全員に連鎖するまでそう時間は掛からなかった。
「すごいぞ!」
まだ手に痺れが残る中、駆け寄ってきた父はそう言いつつ大きな手でぐしゃぐしゃと頭を撫でる。ちょっと痛い。
別に何か努力を積み重ねたとか、そういう苦労を経て祝われているわけではないので少しの違和感は残るが、それでも両親を初めとしこれだけの多くの人数に祝われるのは政貴として嫌な気はしなかった。
まさに雷のような一日だった。あれからすぐに宴が開催され、主役の政貴は肉に魚にすっかりお腹いっぱいになっていた。そして気が付けば就寝時間を迎えていた。
「この世界にも、残念ながら居場所が出来てしまった」
今朝までは現実世界に戻りたいと、そればかり考えていたが意外とこの異世界(?)も悪くはないと、そう感じ始めていた。
お腹が幸せで満たされている。今日はなんだか疲れたしこのまま眠りに就こうと、すっかり慣れてしまったせんべい布団にかけ布団を肩までしっかりかけ、その温かみを肌で感じる。
意識が徐々に奪われ文字通りウトウトとしている時、何か気配を感じて障子のある方を向く。
薄目で障子の方を向くとしっかりと閉めたはずの障子に隙間が空いており、目線を下に落とすと何やら人影が・・・?動いた?
何か人影が動いたことで、これまで遠のいていた意識が一気に戻り恐怖のあまり大きな声が出そうになる。
するとものすごい勢いで人影はこちらに迫り、叫ぶ間もなく口を塞がれた。そして「シーッ」と人差し指を口元に当てて喋らないでと合図をしてくる。
そして小声で「わたし、わたし」と言うので目を慣らして相手の顔を確認すると、見覚えのある顔がそこには居た。
「えっと、あの先生」
今日の魔法の授業の時に思いっきり竹刀で叩いてきた先生、そしていつも朝になると慌ただしく起こしにきてくれるお付きの人がそこに居た。
一瞬、授業中の態度が気に食わずに殺しに来たのかと思ったのだが、様子を見る限りそうではないらしい。
「何かありました?」
政貴は訝しむような表情で彼女の方を見つめる。夜に、それも寝ようとしていた時間に急に部屋に入ってこられたのだから当然だ。
彼女は政貴のその言葉を聞くと、ニッと笑顔になりながら彼の耳元でこう囁いた。
「君、この世界の人じゃないでしょ」




