仲間
彼女の言葉に、政貴はドキッとした。この世界の人間ではない、すなわち時任政貴の中身が本人ではないことが気づかれたのだ。
さて、どう返事をするのか正解か。嘘をついて自分は政貴だと言い張るか、それとも正直に話すか。
しかし正直に話したところで「寝て起きたら体が入れ替わってた」なんて言ったところで信じて貰えるはずがない。しかしこうしてわざわざ人気の少ない夜にこうして来ると言うことは余程の確証があったはずだ。
どうしようと、悩む彼の姿を見て彼女は先にこう答えた。
「私も、実はこの世界の人間じゃないんだ」
せんべい布団の端っこに座り、彼女はそう話した。政貴は予想外の展開に、思わず目を丸くした。
「この世界の人間じゃないって・・・?えっ?」
「正確に言えば入れ替わってるってところかな?政貴くんもそうでしょ?」
「は、はい」
やっぱり〜と彼女は未だに体の半分が布団に入った状態の政貴に顔を近づける。急に顔を近づけられたものなので、つい反射的に仰け反ってしまった。
「えっと、どうして分かったんですか?」
体が仰け反り、若干引き攣った顔のままそう問いかけると
「ん〜挙動不審だったから」
と若干ショックを受けるような回答が返ってきた。
彼女の殺意が無いことが判明し、ひと段落付いたところで政貴は気になっていた質問を彼女に投げかける。
「ところで、この世界から元の世界に帰る方法って分かります?」
まるで道に迷った少年が通行人に道を尋ねるかのように質問した。
すると彼女は立ち上がり、障子を開けて外を見る。そして夜空に照らさながら振り向きこう答えた。
「帰れるよ。これ見て」
言われるがまま、布団から起き上がり外の景色を見る。
「これって」
思わず息を呑んだ。それもそのはず、夜空にはあの時と同じオーロラが輝いていたからだ。
「私たちが元の世界に帰れる時は必ずこのオーロラが出る。だから多分今夜には帰れると思うよ」
「それって寝てないと帰れなんですか?」
「あ〜私もそれ気になって一回試したことがあったんだけど、睡眠は関係ないみたい。起きててもある時間になると意識が途絶えてこっちの世界で目覚める」
てっきり睡眠がトリガーかと思っていたが、そうではないらしい。
再び輝く妖艶な光は、現実世界への帰りの切符にすら見えてきた。
「これで元の世界に戻っても、またこっちの世界に戻されるんですよね?」
「そう。あっちでも大体オーロラが出た日には目が覚めるとこっちの世界に戻ってるよ」
おそらく彼女は自分よりもずっと前からこの世界に居たのだろう。自分の知らなかったことをなんでも答えてくれた。
ふわぁ〜と落ち着いたからなのか、大きなあくびが溢れでた。
「明日は学校か〜」
既にこの世界に来て三日は経過している。確か土曜日の夜眠りについた時にこちらの世界に誘われたので現実では明日は水曜日のはずだ。
現実世界では一真に変わって政貴が学校生活を送ってくれていることだろう。
学校という言葉に反応したのか、彼女は興味津々に「どこの学校なの?」と聞いてくる。
「山下高校です」
「え?山下って、もしかして久松山の?」
「そうですけど・・・?」
高校名を出した途端、彼女は更にテンションを上げて、長い髪をゆらゆらと揺らす。
「私の出身校だ」
「え?そうなんですか?」
思わぬ関わりに政貴も彼女の方を振り返り、目を合わす。
異世界で後輩に出会ったことで彼女は上機嫌になる。そこからは地元トークが炸裂した。
「え?あの先生まだ居るの?めっちゃタバコ臭いでしょ」
「ですです!前に試験中に近く通っただけで匂いがもわ〜んってして」
「あっはは、分かる分かる」
久しぶりに現実世界の話で盛り上がった。スマホもインターネットもない世界、ただただ二人は会話だけを楽しむことができた。
小一時間は経っただろうか、会話が途中途切れると彼女は大きなあくびを出した。
「そろそろ寝なきゃだね」
縁側に座り込んで話していたが、彼女は立ち上がりそう言った。
「ですね」と政貴も立ち上がり、大きく背伸びをした。
「ごめんね、こんな夜遅くに」
「いえいえこちらこそ。こんな場所に先輩がいるなんてびっくりで嬉しかったです」
すっかり先輩後輩になった二人は、打ち解けて仲良くなっていた。
「じゃあ明日の朝十一時に市役所のところのコンビニ集合ね」
「え?」
「お互い、連絡先知らないから寝坊厳禁、じゃあね〜」
明日は学校があると言いかけたが、彼女の当たり前に来れるでしょうという圧を感じて何も言い返せなかった。
「学校サボるのなんて初めてだ」
悪い先輩に捕まってしまったが悪い気はしない。政貴も寝坊しないようにそのまま就寝するのだった。




