40話 問題は増えるもの ~わたしがやりたい事3~
いつも通り講義を終え、帰宅。
そして、手伝いをこなし、就寝。
しかし、昨晩、前世の記憶を見たおかげで、また夢の中で絶賛迷い中である。
高校進学の進路で悩んでいた時、おばあちゃんに言われた言葉。
「好きなことをすればいいさね。でもねぇ、バチが当たるようなことは駄目だよ?」
好きなことをしているつもりなのだけど、なぜあの記憶が流れ込んできたのだろう。
心のどこかで、納得していないのだろうか。
どうしたものだろう。
いや、わたしは、どうしたいのだろう。
ダラダラと生活したいと思っているのは変わらない。
だが、この世界で家に引きこもって過ごしたところで、楽しいのだろうか。
前世では、ネットやゲーム、漫画に小説。
クリエイターたちが作った物を提供されていたからこそ、楽しめたのだ。
それは日常的に使用していた家電やパソコン、スマホなどもそうだろう。
インフラが整っていたのも大きい。
しかし、この世界でそれが無いのであれば、引きこもったとしても何もすることなくすぐ飽きる。
きっと、同じようには楽しめないと思う。
何か趣味を見つけることができればあるいはとも考えた。
でも、所長の話を聞く限り、貴族の娯楽も特に琴線に響くものではなかった。
それなら、物作りが元々好きだったこともあり、商会の倉庫で商品を作っていた方が熱中できると思ったぐらいだ。
所長から学べば学ぶ程、この世界は前世とは違う。
制約も多いし、下手をすると死に直結する。
魔力という存在のせいで、貴族が圧倒的な力での支配を可能にしている理不尽な世界だ。
いや、きっと前世の記憶があるせいで、理不尽だと感じているだけだろう。
この世界の人々からすれば、それが当たり前なのだから。
……困ったなぁ。
まずは電気と思ってみたものの、貴族の存在が邪魔をする。
魔力に代わる物を作ることは許されないだろう。
貴族に主導権を握らせようにも、肝心な部分で貴族のルールがそれを許さない。
この先、貴族の世界も変わるかもしれないが、現状は八方塞がりだ。
……夢は叶ったのになぁ。
出会った形は少し変だけど、妖怪たちと意思疎通も交わせた。
……不思議空間限定だけどね。
「はぁ、好きなことかぁ~……にしても、また増えたね」
ここ数日の間に、また精霊たちの数が増した。
どこまで増えるのかは知らないが、ワンルームの部屋ぐらいなら埋め尽くせそうな数だ。
一体、どこから集まって来るのやら。
そのうち、この空間全てを埋め尽くしてしまうのではないか。
「よ~く見ると大きさも違うんだね。大きいと精霊の力も強いとか?」
ピカピカと青く光った。
同じ精霊でも、みんな違う個体みたいだ。
精霊で一括りにされてはいるが、種類も多い。
試しにと種別毎に一列に並んでもらったら、何列もできてしまった。
「おぉ~、こう並ぶと壮観だね~」
せっかく並んでもらったので、種別毎に思い浮かんだ名前を片っ端から付けていった。
妖怪たちには、やはり妖怪の名前というように。
「河童ちゃ~ん」
わたしが呼ぶと、水色の光が集まってきた。
鮮やかな緑色が混ざっているのが河童に見えて、思わず名付けてしまった。
「おおぉ。いいね」
並んでもらうと、わかり易い。
精霊も、白、黄、青、赤、緑、黒系統と、属性の色に分かれているようだ。
色を見ながら名前を考えるのが、なんとも連想クイズのようで夢中になってしまった。
だが、そろそろ時間だ。
体のあちこちが透け始めた。
……あの子は、まだだったね。
一際大きい黒い精霊。
光に当たると、藤の花のような優しい紫色になる不思議な黒。
光の反射で白く輝いている部分と紫色。
その色合いが、あの子の髪を思い出させる。
わたしが、妖怪探しをするきっかけになった女の子。
……そっか……まだ途中だった。
「君の名前はヨミ。わたしの大好きな神様の名前から考えてみました」
黒い精霊は戸惑っている様子に見えたが、すぐにわたしの周りを勢いよく飛び回って、嬉しそうにわたしの手の上に止まった。
「気に入った?」
ヨミはゆっくりと青く点滅した。気に入ってくれたようだ。
「ねぇ……捜してる女の子は、この世界に……いるのかな? 会えると思う?」
みんながいるのなら、彼女もいるのではと何度も考えた。
あの子に会えていない。
この世界にいるのなら、会いたい。
ずっと聞きたかった。
だけど、否定されるのが怖くて、ずっと聞くことができないでいたこと。
わたしが本当にしたいこと――あの子に会って、お礼が言いたい――。
その時、ヨミを筆頭にして、精霊たちがふわりと舞い上がる。
くるりと周囲を舞いながら、辺り一面を眩しいほどの青い光で満たした。
「そっか……ありがとう……みんな、ありがとう」
励ますように精霊たちは色鮮やかに光り出す。
零れ落ちる涙は、大きな波紋となり、紫がかった明け方の空のような景色を広げていく。
わたしはその光景を見て、精霊たちに精一杯の感謝を伝えるべく、お辞儀をした。
ボロボロと大粒の涙を零しながら、深く深くお辞儀をした。




