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私の秘密は増えてゆく ~この幸せを守るため――だからわたしは仮面をかぶる~  作者: 月城 葵
二章    得る知識と知る痛み

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39話  危険な火種 ~本能は警鐘を鳴らす~



「誰だ。用はなんだ?」


 ルドが動揺を抑えて睨むその先には、年は三十を過ぎたくらい。

 鍛錬を欠かさないであろう鍛えられた体躯に、鋭い眼差しの男。


 さらに男の奥で、見張りの二人が倒れているのが見える。


 ……チッ! いつからいた? 二人組か?


 その脇には、白髪交じりで、こめかみの辺りに傷のある壮年の男が腕を組んで、壁にもたれかかっていた。


 ……貴族? いや、攫ったのは平民だ。だとすると、雇われの傭兵か?


 男が一歩、歩み寄る。


「ラズモンド。ただの通りすがりの父親だ」


 ルドは必死に考える。

 そんな名前は、滞在する傭兵の名簿には無かった。

 これほどの男なら、要注意人物に指定されているはず。


 そんな者がいる商会には、わざわざ近づかないと。


 ……ラズモンド? どこかで……だが父親だと? 何を言ってやがる。


 また一歩、歩み寄る。


 ラズモンドの一歩が、ルドを威圧する。

 ルドは威圧感に耐えきれず、手にかけた剣で警告するかのようにヒュッと空を薙ぐ。


「危ねえなぁ」

「それ以上は……死ぬぞ」


 ルドは警告するも、ラズモンドの表情は変わらない。


 さらに一歩、ラズモンドが歩み寄る。

 床を踏む音が響いた瞬間、空気が重くなった。


 ……クソがっ! 話し合いは……無理か。


 どこかで聞いた名前。

 自分の名前を知る男。

 そして、二人組。


 だが目的がわからない。


 あの品の情報漏洩は許されない。

 逃げるわけにもいかない。


 しかし、勝てるのだろうか。

 この男に。


 見えない圧力がルドを襲う。


「チッ! 火の神よ、猛る炎の如き力をっ!」


 嫌な汗が背中を流れる。

 だが殺るしかないと自身に身体強化を付与し、ルドは恐怖を押し殺して前に出る。


 速く。

 鋭く。

 ルドは気迫とともに斬りかかった。


「おせぇな」


 ……ッ! マズイ!!


 ラズモンドは素手で容易く剣をいなし、お返しとばかりに拳を振り抜く。

 ルドはかろうじて避けるが、頬が裂け、鮮血が舞った。


 それでもルドは止まらずに剣を振る。

 何度も切り返しながら速度を上げ、剣を振る。


 いつの間にか左腕が動かない。

 しかし、この程度なら幾度も切り抜けてきた。

 そう自分を奮い立たせ、剣を振るい続ける。


 だが服を掠めはするものの、全て避けられる。

 太刀筋は見切られ、逆にルドは左肩を打ち砕かれた。

 肋骨も何本か折れただろう。


 ……はぁ……くっ、そろそろ速度に慣れてきただろ。終わりだ!


 ルドは更に速度を上げた。


「くたばれっ!!」


 緩急を交えた必殺の突き――刺し違えてでもと肋骨を犠牲にしながら放った剣は、ラズモンドの掌と拳で挟み込まれ、そのまま拳で叩き折られた。


 ……折った、だと。


 その事実に本能が警鐘を鳴らす。

 ルドは反射的に飛び退き、距離を取る。


「……はぁっ、はぁ……何なんだ。何なんだお前はぁぁぁっ!」


 怒号と共に折れた剣を投げつけると、全力で地を蹴り、一瞬で間合いを詰める。

 腰の後ろに差した短剣を引き抜き、突き殺す――ルドの全速力。

 全体重を乗せた渾身の刺突。


 だが、先に突きを放ったはずのルドの右手が、嫌な音と共にラズモンドの拳によって破壊される。

 

 カランッ――。

 折れた剣が、床に落ちる音と同時に決着はついた。


「うぐぁぁっ……ぐっ……うぅ、はぁ、はぁ」

「殺しはしねぇよ。聞きたいことがあるからな」


 そう言ってラズモンドは、ルドの腹に重い一撃を加える。


「がぁっ! ぁ……ぁ……」


「死んだほうがマシだったかもな。同情するぜ……あの方は、俺ほど甘くない」


 意識が遠のく中、ルドの耳元で囁かれた言葉。


 それはルドが聞いた最悪の言葉だった。





ここまで拙い文を読んでいただきありがとうございます!


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