38話 解決できそう? ~ズルい所長の採点方法3~
わたしは俯き、次の案を考える。
本当に問題だ。
なんとも貴族中心の世界だ。
平民の管理など、特になんとも思っていないのだろう。
これは、わたしがどうこうできる問題じゃなさそうだと、心の中で頭を抱えた。
だが、なぜだろう。
顔を上げると、所長がいつもの難しい顔ではなかった。
なんというか、いつもの無表情。
それでいて、わたしを試すような紫の瞳。
まるで、難しい問題ではないと、所長自身は思っているような……。
「では、市民にはどういう利点を与えれば納得する?」
「え~っと、思いつくのは、治療費の負担軽減とかですかね。後は、教育費とか。これは学校があればですけど……」
わたしの頭では、せいぜいが身近にあった制度を提案するぐらいだ。
人口を考えて、何割にするのが妥当だのと考えるのは、頭の良い人たちに任せる。
導入されるのかもわからないのだ。
わたしが深く考えてもと思う。
それにしても、所長はどう考えているのだろう。
難しい問題と言った割には、先程から、いつもの険しい表情を見せない。
やっぱり何か解決策でもあるんだろうか。
「所長、何か解決策でもあるんですか?」
「どうしてそう思う?」
いつもの顔じゃありませんと言ったら、すっと所長の腕が伸びて、おでこにぺちんっとデコピンが飛んできた。
「っぁ、いったぁ~ぃ」
……なぜだ。
詳細は教えてもらえなかった。
確証がないことは、あまり口にしない主義だそうだ。
いかにも所長らしい理由だった。
わたしの背丈ではよく見えないが、所長は筆を手にとって、書類に何かを書き写している。
ある程度の流れは、掴めているのかもしれない。
後は、どうその流れに導くのかといったところだろうか。
「なんだか、モヤモヤします」
所長は顔を上げると、眉間に皺を寄せ嫌な顔をした。
「後は、貴族の問題だ」
わたしは、机に頬杖をついて所長をじっと見つめるが、仕事の邪魔だと手でシッシと追い払われた。
「君が悩む分には、私は問題無い」
「むぅ……」
わたしには貴族と平民の関係性について、まだまだ理解が足りていないのだ。
そんな頭でいくら考えても、答えは出ない。
それはわかってはいるのだが、なんだか納得がいかず、長椅子に座り時間をもて余す。
「所長、そういえば宿題の点数は何点でしたか?」
ふと、課題の点数を求めると、所長は手を止めずに答えた。
「満足はしている」
点数を聞いているのに、感想を言われてしまった。
あの所長に褒められた気がしてちょっと嬉しいのだが、どの辺に満足したのだろうか。
「考えなくても良いのに、ちゃんと考えてきた辺りだ」
……ん? 考えなくても?
所長は、ほんのわずかに眉を上げて言った。
「製法の問題が解決するならば、後は商会側の問題だ。君が労働力の心配などする必要がなかろう」
……それで本当に良いのかって、言ったのは所長じゃん。
「でも、所長がいいのか? って……」
「それで良いのか? とは言ったが、はいと答えればそれで良し。労働力の確保の仕方を学べば、それでも良いと思ったのでな。あえて言わなかった」
「え~、ズルくないですか?」
「常識を教えるのは、誰であってもよかろう?」
真剣に悩んだ結果、これである。
なんとなく、製法の問題が無ければ、従業員が使えるのではと思っていたのだが、それで正解だった。
足りなければ、商会が補充すればよいのだ。
わたしが悩む心配は、なかったようなものだ。
……まぁ、常識は学べたんだけどさ。普通に教えてよ。
「募集をかけても、六等平民を簡単には雇えない理由が、しっかり認識できたはずだ。孤児を雇う難しさを理解できただろう?」
なんとなく理解した。
孤児院の子供たちならまだしも、東地区の孤児たちも同じように認識していたわたしに、やんわりと待ったをかけていたのだ。
あの答えを聞いて、わざと奴隷制度の話をしたのかもしれない。
労働力の確保と聞いて、わたしが孤児をどうにかしたいと無理を言い出す前に考えさせた。
所長らしいと言えば、らしい。
非常に回りくどい。
……めんどくさ~いっ!




