38話 解決できそう? ~ズルい所長の採点方法2~
翌日。
今日も生産の目処は立ったとはいえ、エステラは倉庫でせっせと石鹸作りに協力中。
わたしもいつも通り、講義室でお勉強である。
わたしがいつ変な発言をするかわからないので、所長は自分とわたしの周りだけに防音の結界を張った。省エネというやつだ。
「……なので、二、三人もいれば大丈夫そうです。五人いれば万全かなと」
「人数はわかった。それで、どうするのだ?」
所長は人数を確認して軽く頷くと、宿題だった労働力の確保の件にふれた。
わたしは、考えた案を説明していく。
ノックスが言うには一般的に店先で募集をかけるそうだが、それを人の集まる役所でやってしまおうという方法だ。
「……なるほど。問題点もあるが、まぁ、いいだろう」
「問題点?」
所長は頷くと、面倒くさそうに説明してくれる。
五等平民以上は問題無いが、六等平民には市民権が無い。
つまり、身元保証ができないのだ。
そのような者たちが役所の掲示板を見たとしても、店側が受け入れるとは限らない。
何か問題が起こった際、役所が責任を取る形になってしまうようだ。
「それは店側が、その人物をしっかり見極めれば良いのでは?」
「知人の紹介などで身元の保証が可能な者たちばかり。責任はその知人、家族に負わせてきたのだ。いきなりそのような対応を、店側ができると思うか?」
……なるほど。わたしの感覚がズレてるよね、これは。
身分証も戸籍も無い。
偽名、経歴詐称、何でもありな者たち。
誰が身元を証明するのか、という話だ。
この世界なら、市民権を得ないのであれば身元を偽るのは簡単だ。
六等平民を労働力に数えられない原因は、深刻な問題かもしれない。
そんな人物を、店側で雇う確率は低いだろう。
「役所で仮登録とかできないんですか? 生まれた時に血を登録したように」
「なぜ、そう思った?」
所長の目に鋭さが増した。
マズイ話題だっただろうか。
……大丈夫。所長なら駄目なものは駄目だと、ちゃんと言ってくれる。
「血を登録して、洗礼前の子供が攫われた時に確認できると聞きました。これって、わたしの世界では個人の遺伝子というもので確認しますが、こちらでは、魔法のような契約で紐づけしているのでは、と考えました」
所長が小さく頷く。
「そうだ。君の推測通り。血の契約によって紐づけている」
「なら、それを六等平民にするのも可能では? これなら犯罪を犯しても、すぐ確認できるはずです」
所長の目が続けろと訴える。
「偽名だったとしても、血で縛れるのなら……えっと、早々に犯罪をしようなどと思わないはずですし、それが狙いの人間であれば躊躇するはずです。そうすれば、六等平民による犯罪も減ると思うのですが……」
わたしは所長の反応を見ながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
所長は目を閉じて、机を指でトントンと叩き始めた。
この仕草は思考する時の癖だ。
「一理ある。君の世界のやり方を参考にしているのであろう?」
「はい。血、髪の毛、指紋、そういったものでも個人を特定できます」
「それは、管理されているのと同じだと思わないか?」
たしかにそうだ。
だけど、法に守られ、安全を得るためであれば、だれも不満には思わない。
あれもこれも、理不尽に自由を奪われる訳じゃない。
「規則を守ってはじめて、自由な生活ができると思っていました。全てを雁字搦めで、管理するわけではないんです。規則がないんじゃ、無法地帯と変わりません。だれも安心して暮らせません」
わたしの知り得ない場所では、色々とあったかもしれない。
だが、わたしが知る限りは、この世界よりもずっと安全で暮らしやすかったはずだ。
所長は再び静かに目を閉じ、考えに耽っている。
なんとか孤児たちにもチャンスはないかと密かに考えてはいるが、所長の答えはどうだろう。
「君の考えは理解した。しかし、難しい問題がある」
長い思考の後、顔を上げて所長は言った。
「血の契約によって信用を得るとは、市民権を得ることと同義だ。それを仮にとはいえ、六等平民に与えた場合、他の平民からの反発が予想される」
「同義って……市民権とは具体的にどういった権利が?」
結局のところ、個人の身元保証。
信用だ。
それ以外に、これといって特典が無かった。
わたしの世界にあったような、優遇処置のような制度はなかったのだ。
これは盲点だ。
てっきり、少しはあるものだと思っていたのに。
「……それは、問題ですね」
このままだと、市民権を与えるのと同じ。
これじゃ、身元保証だけは与えましょうなんて言えない。




