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私の秘密は増えてゆく ~この幸せを守るため――だからわたしは仮面をかぶる~  作者: 月城 葵
二章    得る知識と知る痛み

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36話  制度のお話 ~ないなら作ろう新たな制度2~



 かなり長い時間だった。

 所長は「いいぞ」と言って手を離すと、目を閉じ再び考えに没頭してしまった。


 ……長かったけど、理解できるものなの?


 思考の邪魔をするわけにもいかない。


 わたしは静かに席を立ち、その場を離れる。

 壁際の長椅子に腰をかけて、足をぶらぶらさせながら他の案を模索し始める。


 とはいっても、すぐに浮かぶわけもなく、いたずらに時間だけが過ぎていった。


「何をしているのだ君は?」

「はい? 他の案はないかなぁ~と」


 ……いま、呆れたでしょ?


 わたしは怒られる前に椅子へ座り直し、背筋を伸ばして聞く姿勢を取る。


「良い仕組みだ。しかし、貴族たちが納得するかは別だがな」

「無理そうですか?」


 やはり無理なのだろうか。

 法律がホイホイ作られたら、大変だとは思うが。


「東の大領地ヴァーニールに似た制度がある」

「あるんですか?」


 ……あるのか。あれ? わたしの説明がやっぱり下手だったのか。


「厳密に法で整備されているわけではない。商業組合という制度がある。これは貴族は関与しておらず、平民が独自に作ったものだ」

「組合ですか?」


 商業組合に登録した商品は、開発者か所属している商会に所有権がある。

 そして、所有権を持っている者に売上の一部を支払うことで、許可を取り製法を扱うことが可能になるそうだ。


 組合は許可証の発行や、組合への登録料、仲介などで成り立っているらしい。


「領外へ知られたり、組合が勝手に製法を横流しする心配はないんですか?」

「どこにでも愚かな者はいるが……」


 領外へ商品を売る場合でも、製法を領内で独占している。

 そのため、わざわざ外へ製法を流す者は皆無だそうだ。


 領内で許可もなく商品を扱えば、組合内の商会を敵に回すことになる。

 こちらも同様に、そんな馬鹿な者はいないらしい。


「自分たちの利益を捨てるようなものだからな」

「……なるほど」


 しかし、過去にはあったようだ。

 身分を偽った従業員に、情報を領外へ持ち逃げされてしまったらしい。


 それ以来、他領の者の身分を偽れないように、身元保証人を用意するなど、この制度を守っているようだ。


「それって、貴族が無理にでも聞き出したりしないんですか?」

「そのための許可証だ。組合全体が知っているのだ。聞き出す必要がない。組合に所属している商会には貴族の後ろ盾を持っている者たちもいる。それを全て敵に回す者もおるまい」

「あっ、そっかぁ」


 ……うまい制度を作ったもんだね。ヴァーニールだっけ。


 それならばどうして、サンドレアムではその制度がないのだろうか。

 そのような前例があるのであれば、導入してもいいはずなのに……。


「そんな顔をするな。君の感覚ならば、そう思うのも無理はない」


 所長は眉を寄せて言った。


 領内の商人は流出を恐れて自らの販路しか使わず、広く流通しない。

 それなのに、他者の台頭を嫌い、小さな枠組みの中で争い合っている才覚のない商会が多いのだと。


 商会が独占して売っても、目新しさだけで長続きもしない。

 その程度の魅力しかない商品ばかり。


 そこで貴族は、自分好みの商品を、商会を通じて領外から取り寄せているらしい。


「そのような者たちに、ヴァーニールの制度の重要性などわかるまい。制度を導入しても、今の状態では大した利益にならんだろうからな」


 本当にどうしようもないと、所長は頭を振る。


 サンドレアムの商人たちは、ヴァーニールのような制度を作る意味を見出してはいないようだ。


 自らの儲けしか考えていない商人たちを納得させるには、それ以上の儲けを出させる必要がある。


「じゃぁ、どうしましょう?」

「今は魅力ある商品があるではないか。誰もが欲しがる商品が」


 ……ぬか石鹸か。


 所長が、わたしの目を見て話を続ける。


「自分も使いたい、自分の商会で扱いたいと争いになるだろう? 我先にと販路を広げ、領外にも売りに行くだろう。それを領内の商会が、こぞって行うのだ」

「……でも、知られると困るわけでして」


 所長が小さく頷く。


「そうだな。だが、制度を作れば組合の商会を警戒しないで済む。レント商会としては、儲けも大きいうえに、危険も回避できる。飛びつくだろうな」


 ……たしかにそうだね。


「あとはサルボ商会をはじめ、各商会を説得すればいい。こちらも商品を見れば、扱いたいと申し出るはずだ。販路が多い商会ほど、儲けは多いからな」


 ぬか石鹸を所有しているレント商会。

 そして、他の商会に影響力のある大商会サルボ。

 両者を説得できれば、後は勝手にサルボ商会が各商会を説得するだろうと、所長は言った。


「サルボ商会を中心とした商会で、組合を運営するんですか?」

「いや、組合に関しては役所が管理すれば問題なかろう」


 わたしは首を傾げた。

 てっきり、商会で管理する話だと思ったからだ。


「管理は役所ですか?」

「そうだ。平民の制度を施行するのは役所の仕事だ」

「それはそうですけど……そんなにすぐ制度の施行って、できるんですか?」


 所長は「役所の最高責任者は誰だ?」と、悪い笑みを浮かべた。



 ……そうでした。あなたでした。





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