36話 制度のお話 ~ないなら作ろう新たな制度1~
どうしたものだろう。
自らの駄目さ加減に打ちのめされた日の晩。
腕を組み、頭をフル回転して解決策を模索している自分が不思議空間にいた。
わたしの秘密を知られないためとはいえ、これ以上、ノックスたちに負担を強いることはしたくない。
レント商会自体が人手不足なのではない。
あくまでノックスの周辺だけで、わたしが関わった品の生産と調整に手が足りないのだ。
プカプカと浮かぶ精霊たちも、わたしの周りをくるくると回り「大丈夫?」と、語りかけているようにも見える。
体は動くのに頭は働かない。
ゴロゴロと転がりながら唸る。
決して精霊たちと戯れて、癒やしを求めて遊んでいるわけではない。
……くぅ~。わから~ん。
結局、人を雇ったところで製法の流出問題が出てくる。
開発にわたしが関わっていることは隠せても、この問題は解決出来ない。
……信用できる人物に頼む? 三馬鹿?
却下だ。
あの三人だって自分たちの仕事を持っている。
ボランティアでやってもらうような仕事ではない。
やはり、給料を与えて人を雇うしかない。
しかし、そうなると誰が給料を払えばよいのか。
雇ったところで、その人物を信用できるのだろうか……。
……あれ? 振り出しに戻ったぁ。
仮にわたしが雇用主になったとしよう。
でも、商会の倉庫を作業場として使っているのだ。
他で雇った人間をそんな所に出入りさせていたら、どう考えても非常識だ。
商会から、お咎めがあるのが当たり前だろう。
……先に場所?
では、製造場所を他で用意して、そこで生産するのはどうだろう。
雇った人たちの給金は、ノックスと儲けを折半して、わたしが払えばいい。
生産する道具自体は、大掛かりな機材は必要としていない。
火と鍋があれば、ぬか石鹸なら可能だ。
……場所は探すとして、製法問題は厄介よね。
信用問題。
製法流出を懸念している会長を説得しなければ、どの道、場所を用意しても生産が許可されないだろう。
秘密裏に生産して、後でノックスの責任問題になっても困る。
……製法の流出かぁ。これクリアしないと、どうにも動けないなぁ。
ノックスの話では、先に世へ送り出しても真似が当たり前。
大手にすぐ真似されてしまい、独占期間が短いと言っていた。
だから、真似が難しい製法から作る商品には物凄い価値がある。
真似されるまで独占でき、儲けも期待できる。
……料理ですら高額だもんね。
だったら、流出しても問題無いようにすれば良いのではないか。
……そういえば、著作権ってあるのかな?
流出しても問題ない仕組みを作ってしまえば、解決できそうな気がする。
ただ、こうなってくると法律的な問題だ。
わたしが決められる範疇を超えている。
でも、聞いてみる価値はあるかもしれない。
◇ ◆ ◇
熟睡したはずなのに、頭の疲れが全く取れないのはいかがなものか。
しかし、今はフレデリカの注文分を確保する件が最優先。
エステラには引き続きノックスの手伝いに専念してもらい、再びわたしは一人ぼっちである。
……今度はちゃんと自分の考えも用意した。さぁ、挽回といこう。
お馴染みの講義室で、お馴染みの不機嫌な顔の所長に質問タイムである。
「……という理由でして、著作権関係ってどうなってるのでしょうか?」
「著作権というものは無いが、許可法と呼ばれるものならばある」
領内で保管されている魔法書や歴史書などの書物は、許可法に守られているそうだ。
普通の書物ならば、基本的に制限は無い。
だが、許可法に守られた書物は、然るべき場所に許可を取らなければ犯罪となるようだ。
領独自の魔法書や歴史書、家系図などが該当するらしい。
「生産される商品には、それはないんですか?」
「私の知る限りはな」
これは困った。
法律を作ってくれなどと、無茶は言えない。
しかし、これが解決しなければ先に進めない。
わたしの不安をよそに、所長は机をトントンと指で叩いて考えに耽っている。
「しかし、君の言いたいことは理解した。かなり突拍子もない案だが、一考する余地はあるだろう」
「え? ……いいんですか?」
「領内に発展をもたらすのであればな」
……発展かぁ。規模が違いすぎてわからないよ。
どう説明したらよいか、頭を悩ませる。
上手く説明できれば、突破口が開けるはずだ。
後援者や支援団体、いわゆるパトロンに出資してもらう。
作品や製法を保護し、利益を還元する仕組み。
お互いに利益の出る案を、どう説明したらわかってもらえるだろうか。
「手を出しなさい」
「あっ、はい」
痺れを切らした所長が、例の魔法を使うようだ。
嫌だと言っていたのに、なんだか申し訳ない。
「君は平気なのだろう? ならば問題無い」
……いや、むしろそっちの問題じゃ?
おずおずと出したわたしの手をとり、所長が「繋げ、伝えよ」と呟いた。
……集中。著作権とは……経済に及ぼす影響は……。




