35話 お姉ちゃんは強く ~密かに宿す決意の灯2~
森の出口に差し掛かると、目を細めて進む必要があるほど、雪に反射する光が一層強さを増した。
木々の間を通る光と影が交錯し、なんとも幻想的な風景を作り出している。
森の出口を抜けると、街まで伸びた道沿いに狩人たちの休憩小屋が二人の目に入る。
それは主に、狩人たちが獣の処理をしたり、安全に休憩するための小屋であり誰でも利用可能だ。
「父さん、今日は誰かいそうだね」
「ああ、先客がいると、この時期は楽でいいな」
小屋は木造の頑丈な作りで、冬の寒さを防いでいた。
屋根には雪が積もり、煙突からは煙が立ち上っている。
中から漏れてくる光と、煙突から上がる煙が、温かい炉が焚かれていることを物語っている。
二人は寒さから逃れるように小屋の中へと向かう。
「誰かいるか。邪魔するぞ……」
ライアットが小屋の扉を開けると、温かな空気が二人を包む。
中央の暖炉では薪が弾け、鍋からスープの香りが漂う。
奥を見れば、狩人たちが机の前で、サンドレアム周辺の地図を広げていた。
「おっ、ライアットと嬢ちゃんじゃないか」
ライアットとエステラを迎えたのは、知人の狩人だった。
彼は髭を生やした屈強な男で、冬の厳しさに耐えるための厚手の服を身にまとっていた。
彼は笑顔で二人を暖炉の近くへと招き入れた。
皆で暖炉の前のテーブルに集まり、温かいスープを飲みながら談笑を始めた。
狩人たちは最近の狩猟の話や森での出来事を語り、二人は興味深く耳を傾ける。
「東の森は二匹、他は問題無かった。普段通りだな」
「しっかし、なんで南の森なんだ? 領主様の結界だってあるのに……」
狩人たちの話題は南の森の異変。
街に一番近い森に出現する魔獣が、ここ最近、増えているという話だった。
本来、領主が張った結界のおかげで魔獣は南の森が一番少ないはずなのにと、狩人たちは困惑気味だ。
ライアットもその話に興味があったのか、食事をつまみながら話に加わる。
「今日、結界内で二匹仕留めたぞ。ウルフイーターだ」
「ライアット……それは本当か?」
ライアットの目配せで、エステラが袋から小さな魔石を二つ手に取って見せると、狩人たちは確認したというように頷いた。
「今日だけで五匹か。何が起きてるんだ」
狩人たちの話では、朝方に三匹仕留めたそうだ。
その時に仕留め損なった残りを、午後に探し出す予定だったらしい。
エステラたちが出会った傷を負った魔獣は、その残りだったようだ。
数も問題だが、やはり一番の問題は結界内で遭遇したという異常事態だ。
「そういえば、三匹の死骸はどうした?」
「死骸は焼いた。一匹は調査隊に引き渡す予定だ」
狩人の言葉にライアットは安堵したのか、ほっと息をつく。
「元々、調査隊からの要請だったんだ。最初はこんな時期に数を調べるなんて、おかしいと思ってたんだが結果はこれだ……お前たちも森に入る前は、役所に顔出してけ。立ち入り禁止になるかも知れないからな」
昼食を食べ終え、二人は話もそこそこに休憩小屋をあとにする。
狩人たちとの情報交換によって、二人は貴重な情報を得られた。
調査隊が動いているならば、領主もこの問題を認識しているだろう。
小屋を出た二人は、まっすぐ家路に向かう。
街道は冬の雪に覆われ、左右には雪原が広がっている。
風が木々の間を抜ける音だけが響き渡り、空気は澄んでいて非常に冷たい。
街に続く道の両側には、低い木製の柵が続き、方向を見失わないように導いてくれていた。
そんな道を、エステラは思案顔で歩いていた。
……森が立入禁止になったら困るなぁ。
エステラは、狩人たちから聞いた話が頭を離れなかった。
せっかく、新しい目標が定まった気がするのに、早く解決してもらわないと訓練にも影響が出そうだと。
時折、鳥のさえずりが聞こえてくる。
冬の厳しさの中でも、普段ならばどこかほっとするような気持ちにさせてくれるのだが、今のエステラには届いてはいなかった。
「あっ、雪うさぎ……」
森の中よりも、街道で見るなんて珍しい。
これも森に魔獣が出た影響だろうかと、エステラは眉を寄せて表情が曇る。
街道の向こうに街の風景が徐々に見えてきた。
入口には大きな西門が見え、その先には人々が行き交っている。
「ルルーナを迎えに行くか」
「うん」
二人で門をくぐると、通行人の人混みの中に見覚えのある顔をエステラは見つけた。
忘れようにも忘れられない顔。
ルルーナを攫った誘拐犯を。
……あいつだ。




