34話 お姉ちゃんは強く ~守りたいのに守られた1~
冬の冷たい風が森の中を吹き抜け、ギシギシと降り積もった雪の中を歩く音が辺りに響く。
そんな白銀に包まれた森の中に、二つの人影があった。
休日を利用して、娘に訓練をつけているライアットとエステラだ。
「エステラ、今日は足運びに重点を置くぞ。雪の中でも確実に動けるようにな」
ライアットは真剣な表情でエステラに話しかける。
普段のライアットであれば、娘に対して優しく、笑顔を絶やさない父親だが、訓練の時だけは別だ。
彼は元傭兵であり、その経験を活かしてエステラを鍛えている。
エステラもまた、父の期待に応えようと全力で訓練に臨んでいた。
「はい、父さん!」
エステラは力強く答えると、雪の上を軽やかに走り始めた。
ライアットはその姿を見守りながら、自身も動き始める。
彼はエステラに続き、雪の中での動き方を実演して見せる。
「足を大きく上げてから軽く踏み下ろすんだ。雪が深い場所では、体重を分散させることで足が埋まりにくくなる」
エステラはライアットの動きを真似し、足を高く上げてから慎重に下ろす。
初めはぎこちなかったが、次第にリズムを掴み、滑らかな動きができるようになった。
「いいぞ、その調子だ!」
ライアットは満足そうに頷くが、訓練はまだ終わらない。
「次は、あの木からあの木まで走るんだ。ただし、途中で何度か止まり、周囲を確認するんだ。敵がどこにいるかわからない状況を想定して動くことが重要だ」
エステラは頷き、目標の木を見据えて走り出した。
途中で何度か立ち止まり、周囲を確認する動作を繰り返す。
そのたびにライアットは指示を飛ばし、エステラの動きを修正していく。
「もっと静かに、足音を立てないようにっ! ……そう、いいぞ、エステラ!」
エステラは息を切らしながらも、ライアットの言葉に従い、さらに集中して動きを改善していった。
その目は決して諦めることなく、前を見据えていた。
「駆け抜けろ!」
その掛け声と同時に、木々の間を全速力でエステラが駆け抜ける。
「はぁ……はぁ……」
エステラは息を整えながら、ライアットの顔を見上げた。
「いい感じだ」
ライアットはそう言うと、エステラの肩をポン、ポンと軽く叩き、休憩を告げた。
◇ ◆ ◇
「飯の足しに雪うさぎでも探すか」
ライアットはそう呟くと、エステラの様子をチラリと確認して、辺りを一人で探索し始めた。
エステラは木の根元に腰を下ろす。
火照った体を冷ますかのように、深く息を吐いた。
だが、目を閉じると、エステラは目の前でルルーナが攫われた瞬間を思い出す。
……何も出来なかった。
体調の悪そうなルルーナの手をひいて歩いていた帰り道。
そして、突如、現れた馬車と男たち。
その瞬間はあまりにも早く、衝撃的だった。
接近した馬車が、馬の嘶きと同時に急停止。
後部の扉が開いた次の瞬間、アイナが突き飛ばされ、強い力がルルーナを引き寄せた。
エステラは驚愕で反応が遅れ、手を離してしまったのだ。
……あの時、手を離さなければ。
必死に引き戻そうと手を伸ばしたが、ルルーナの叫びにそれも叶わなかった。
なぜルルーナが止めたのかは、冷静になった後でわかった。
あの時、男は剣を抜こうとしていたのだ。
だから、それに気づいたルルーナが止めたのだと。
きっと掴みかかっていたら、二人とも無事ではなかったかもしれない。
……結局、いつも助けられるのはこっちだね……。




