33話 成功と失敗 ~成功の余波は苦い味1~
三の鐘が鳴り、屋敷の待合室でお弁当を食べ終えると、容器を積み終わったジークがタイミング良くやって来た。
「荷物の方は積み終わりましたので、いつでもお声がけ下さい」
「ジークさん、いつもありがとうございます」
ちなみに所長は、そのまま私室から出てきていない。
ジーク曰く、他の実験をしているそうで、そういう日は夜まで出てこないそうだ。
……実験が好きじゃなくて、実験マニアの域だったかぁ。
ルンルンで実験をしている所長を想像すると、なんだか可笑して笑いがこみ上げてくる。
「どうしました?」
「いえ、所長って実験好きなんだなぁと」
「そうですね。貴族とは面倒なしがらみが多いものです。何も考えずに没頭する時間も必要なのですよ」
……そうかぁ、貴族の相手するのも大変そうだもんね。
ジークとの会話もそこそこに、馬車に乗り込み商会の倉庫を目指す。
化粧水は間違いなく売れるだろう。
使用上の注意点は、必ずテストをすることだ。
貴族相手に、後で肌が荒れただの、かぶれただの言われたら、何をされるかわかったものではない。
あとは所長の言った影響を考えること。
どこまで影響が出るかは未知数だが、魔法の使えないわたしたちでは、生産も下手をすると追いつかないだろう。
フレデリカには特別に卸すとしても、その他の貴族は、ドクダミが生い茂る水の月以降になるはずだ。
馬車に揺られて倉庫へ到着すると「四の鐘の前には戻ります。なるべく、外には出られませんように」と、ジークは役所でお父さんを待つために去って行った。
わたしは、容器を運び入れるため、倉庫の扉をゆっくり開け、作業中のノックスとアイナを呼んだ。
大した数ではないが、わたしが持つには大きいので、二人に手伝ってもらう。
一人で訪問したわたしに二人は驚いていたが、事情を話すと容器を抱えて作業台まで運んでくれた。
「これはなんだい? 液体みたいだけど」
早速、ノックスが容器に入った液体に興味を示した。
「ドクダミで作った化粧水。所長にお願いして見学させてもらったの。普段は軟膏として使ってるみたいだから、少し変えて化粧水にしたの」
「お願いした……のか」
ノックスに、作り方や化粧水の効能、注意点などを話し終える。
もちろん、魔法で時間を短縮したことも話しておいた。
ノックスは「へぇ~」と、キラキラした目で角度を変えながら瓶を光にかざしている。
「消毒用ならあるから、それで濃度は調整して……」
ドクダミ以外は材料に問題ないそうだ。
作り方さえわかってしまえば、ノックスのことだから任せても大丈夫だろう。
やはり問題は、どのような影響が考えられるか、だった。
興奮気味だったノックスが冷静さを取り戻すと、三人で机を囲みノックスの意見を聞く。
「化粧品でもあり、薬品でもあるのが難しいところだね」
「お兄ちゃん、どういうこと?」
……化粧品は薬品の一種じゃないのかぁ。
ノックスが言うには、効能から傷薬としても使えてしまうようだ。
たしかに、肌荒れやかぶれ、虫さされにも効くので間違ってはいないが、わたしの感覚とはちょっと違うようだ。
……そういえば、作り方は違うようだけど、所長は使ってるって言ってたよね。化粧品としては興味無さそうだったなぁ。
「細かいことは、会長に相談してみるよ。フレデリカ様には卸すかもしれないけど、夏頃までは他には売れないかな」
「ノックス、あの事は? 妹ちゃんに話さないの?」
……あの事? って。
アイナの言葉に、わたしはノックスに顔を向ける。
「そうそう、他の二種類のぬか石鹸も試してみたいって、フレデリカ様の使いが来てね。倉庫にある材料で作れる三割、買い付けにきたよ」
フレデリカがぬか石鹸を所望してきた件は聞いていたが、他の種類も順調なようだ。
自分用、布教用と買っていったことだろう。
……お気に召したようで。
それにしても、在庫じゃなくて、今作れる分の三割って結構な数だ。
しかし、順調なはずなのにノックスの表情はすぐれない。
さすがに普段の様子とは違う姿が気になり、わたしは尋ねた。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
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