3話 三年越しの真実 ~任務完了1~
……洗礼かぁ。たしか、前世でも洗礼式とかあった気がする。
宗派などでも何か違うはずだったが、詳しいことはわからない。
だが、このような事情があったから、ずっと自宅でしか自由にさせてもらえなかったようだ。
思い返せば、家の周辺に行く時はいつも誰か一緒だった。
……色々あるねぇ。これは来年の水の月まで我慢かな。水の月の前節だから五月か。
人として扱われないのは怖いので、詳しく聞いてみた。
すると「洗礼前の人攫い対策も兼ねているんだよ」と、ノックスは言った。
子供が生まれると、役所で名前と血、両親の血が登録される。
それは、家族と名簿を管理する役人以外は知らないらしい。
もしも誰かが自分の子供だと主張しても、役所で親かどうかを確認させられるようになっている。
登録と違うと、人攫いとして罰せられるみたいだ。
……遺伝子鑑定みたい。
近所の人に紹介する時に、わたしはルーチェの娘や、エステラの妹と呼ばれていたのは、そのためらしい。
名前を呼ばないのは、血の確認方法がなかった時代の名残なんだとか。
近所の人も昔からの決まり事なので、洗礼前の子供の名前を呼ばないのはごく当たり前。
その場に人攫いが混じって、盗み聞きをしていたら困る。
だから、無理に名前を知りたがらないし、呼ばないそうだ。
「人として扱われないというのも、随分と昔の話さ。今では市民権が無いから、単に市民として扱われないといった意味合いの方が強いだけだよ」
そう言って、ノックスは安心させるように、にこりと笑った。
……そんな理由があったんだね。
エステラがちょっと静かだったのも、うっかり名前を呼ばないようにしていたのかもしれない。
そういえば、ノックスも店内でわたしの名前を呼んでいない。
当たり前だけど、世界が違うと大変だ。
「もし、さらわれて街の外とかに連れ出されたら、どうなるの?」
「それは門で確認されるはずだよ。入って来た時と、出て行く時の人数が違えば、調べられるからね。昔は荷物に紛れ込ませたらしいけど、今は荷物も検査されるから……」
……なるほど、ちょっと安心。誘拐は、そうそう起きなそうね。
「おーい、ノックス」
ノックスと話し込んでいると、店員がノックスの名を呼び、奥の扉を指差した。
「ほら、エステラちゃんが呼んでるよ」
ノックスと共に振り返ると、奥の扉からエステラがひょっこり顔を出して、こっちこっちと手招きしている。
その向こうで、お父さんの背中がチラリと見えた。
……あっ、いたいた。




