2話 初めてのお使い ~価値と習慣2~
「今日は光曜日だから、広場は混んでいたんじゃないかい? 人混みは大丈夫だった?」
お店の人の邪魔にならないように部屋の隅に移動しながら、ノックスが初めて見てきた街の様子を尋ねてくる。
「うん。お姉ちゃんも一緒だったから、平気だったよ」
今日は光曜日だから、広場に人が多かったようだ。
聞けば、光、土、水、火、風、闇の六つの曜日があるようだ。
前世でいう月の数も、全部で曜日と同じく六つ。
各月は前節三十日、後節三十日からなるらしい。光曜日が、現代で言う日曜日みたいなものだろう。
……えーっと、わたしの誕生日が闇の月、後節五日だから、今日は、その二日後……。
ようやく、この世界の日付がわかった。
わたしの誕生日は現代風に言うと、十二月五日のようだ。
文字の読み書きの勉強ばかりだったので、こういう常識も早く覚えないといけない。
「じゃあ、今日は闇の月、後節七日で光曜日?」
「正解。役所で立て札を読んでいないのに、凄いじゃないか」
「うへへぇ……」
役所に行けば日付がわかるらしい。
……うん? 役所に行かなきゃわからない……なら、個人用のカレンダーとかお金になるんじゃ? ふふぅ~ん。
お金の匂いがする。
お金で重労働を解決しようとしているわたしには、大事なことだ。
緩んだ顔でわたしとノックスが話していると、チラリとこちらの様子を確認したエステラが店の奥に入って行ったのを見送る。
わたしは、日付がパッと見てわかるようなものがあるか、ノックスに尋ねた。
すると、なんと試作中だというのだ。
しかもノックスが考案したのだとか……。
……はぁ、一歩前進したのに振り出しに戻った気分ね。
「流石は僕の可愛い妹。すぐそこに気づくのは凄いや!」
褒めてくれたのは嬉しいけど、カレンダーを考案したのは自分じゃない。
ノックスは自力だが……。
内心ガッカリしたが、その後も色々と話をしてわかったことがある。
うちは商家ではないらしい。
お父さんは商人ではなく、商会の警備。
ノックスは商人見習い。
今は働いてはいないが、お母さんは服飾と彫金を専門にしていたらしい。
仕事の話は家ではしない。
なので、聞けなかった仕事のことがわかって、スッキリした。
ちなみにエステラも、わたしと同じ家事手伝いだ。
ここぞとばかりに、貨幣についても聞いてみた。
「価値は、最も安い貨幣が銅貨で、銅貨十枚で大銅貨一枚分。そして――」
……細かいねぇ。家計簿とか大変そう。
「大銅貨十枚分が銀貨一枚、銀貨十枚分が大銀貨一枚ってかんじでね……」
……これなら、すぐ覚えられそう。
露店の野菜の値段から推測すると、大銅貨一枚が日本円で百円ぐらいだろう。
ノックスの話は続いたが、大体把握できた。
「洗礼式が終わったら、商人見習いをやってみるかい?」
「うん。それもちょっと考えてみようかなぁ……でも、洗礼式ってなに?」
「そうか、まだ聞いていなかったのか。あのね……」
ノックスの話から、重要なのは洗礼が終わると市民権が得られることだ。
わたしは洗礼を終えていないので、まだ市民権がないそうだ。
それで、人前では名乗れない習慣らしい。
洗礼式が行われる六歳の水の月まで、家族以外の者に人として扱われないなど、少々怖い話だった。
……人として、認められない、か。




