2話 初めてのお使い ~価値と習慣1~
エステラのことは少々引っかかるが、今は無理に聞く必要もないだろう。
まずは知ること。
そう心の中で切り替え、キョロキョロと辺りを見渡しながら通りを進む。
初めて見る様々な物を指差して、エステラに質問しながら歩いた。
そうして、店に着く頃には気落ちした様子もなくなり、普段のエステラに戻っていた。
切り替えが早いのも、エステラらしい。
目的のお店だと思われる建物の前まで来ると、わたしは歩いて来た道順を思い返す。
家から東側にある大通りに出たら南側に向かい、役所のある広場を目指す。
そして、広場から西門に続く大通りを進めば、お父さんが勤務するお店に着く。
……これで合ってるはず。
エステラが言うには、裏道を使えばもう少し早く着くが、道が複雑なため、覚えやすい簡単な道を教えたのだそうだ。
……流石! お姉ちゃん。よくわかってるぅ~。
でも、いつもより大人しいのが、気になる。
わたしより緊張しているのだろうか。
「それじゃ、中に入ったら受付の人と話してくるから、入口付近で待っててね」
木造三階建ての大きな白い建物がお店のようだ。
店の前に置かれた看板には、レント商会と書いてある。
木彫りの装飾が施された扉から中に入ると、エステラは店員と話をするため受付台へと向かった。
わたしは、話をしているエステラを横目に店内の棚を眺める。
見慣れない品もいくつか並んでおり、気になったので入り口付近から離れないように、店内を少し見て回ることにした。
……小さな石鹸っぽいのと、こっちは新素材の紙?
手触りはザラザラしてるけど、紙だ。
わたしが家で使用していた紙もどきよりは、手触りがいい。
石鹸っぽいのが、銀貨二枚。
名前は読めるが、困ったことに貨幣の価値がわからない。
……でも、この石鹸ちょっと臭い。動物脂使っているのかな? う~ん……。
興味津々であちこち見回る。
この世界で見たことがある物もあるが、ほとんどが初見だ。
……あっちは消毒用って読むのかな?
もしかして、消毒用エタノールかもしれない。
用途がわからない物も、色々ある。
しかし、工具などは見当たらない。
別のお店にはあるのだろうか。
……でも、作り方もうろ覚えだしなぁ。
頭の中で思考を巡らせていた時、背後に視線を感じて、わたしは動きを止めた。
「いらっしゃいませ。可愛らしいお嬢さん」
背後から、よく通る爽やかな声が聞こえた。
振り向けば、微笑を浮かべる美少年がそこにいた。
サラサラの明るい茶髪を揺らして、少年が頭を下げる。
よく見ると、普段とは違う雰囲気をまとった兄のノックスだった。
……職場でのお兄ちゃんを初めて見たけど、本当に十二歳なの?
幼さの残る顔立ちをしているけれど、前世でいえば高校生だと言われても違和感はない。
身なりを整え、綺麗な立ち姿。
まるで接客業のプロのように見える。
エステラもそうだが、とても九歳には見えない。
前世の感覚だと、中学生くらいだ。
……わたしもぱっと見、十歳ほどに見えるし。
この世界の成長スピードは、前世とは明らかに違う気がする。
……それにしてもなんだろう……この爽やか美少年感は。
エステラが職場に初めて行った時は「将来は、兄さんのお嫁さんになる」とか言って、お父さんを泣かせたらしいけど。
わかる気がする。
あと数年もすれば、イケメン好青年は確実だ。
八歳からお店で働き、将来有望。
頭は切れて、顔も良い。
おまけに性格も穏やか。
瞳の色はお父さんと同じ黒色で、他はお母さん似。
普段のノックスなら雰囲気すら、お母さんに似ている。
……ごめんよ。お父さんが勝てる気がしない。




