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私の秘密は増えてゆく ~この幸せを守るため――だからわたしは仮面をかぶる~  作者: 月城 葵
序章    厳しい現実と小さな一歩

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4話   三年越しの真実 ~お姉ちゃんの過去と嫌な噂~



 教会の中へ案内され、近くの長椅子に三人で腰を下ろすと、レンが静かな声でエステラと出会った当時の事を聞かせてくれた。



 三年程前。

 裏の林で孤児院の子や近所の悪ガキたちと大立ち回りをして、草木であちこち擦りむいたエステラの怪我を診たのが、最初の出会いだったらしい。


 レンが、大の字になって地面に転がっている悪ガキたちを見て「何かあったのでは?」と駆け寄ると、大きな石の上に立っていたエステラが一言。


「私は悪くない。そいつらが悪い!」と、言い放ったそうだ。


 ……言いそう。


 子供たちに事情を聞けば、ただの子供同士の喧嘩だった。

 裏の林へ薪拾いに来る子供たちに、イタズラをしたり、ちょっかいを出していた悪ガキたちをエステラが懲らしめたのだという。


「そこから話すの!? やめてぇぇ」


 叫ぶエステラの横で、レンは楽しそうに笑っていた。


「お姉ちゃん。お母さんは知ってるの?」

「知らないはず。お父さんが……誤魔化してくれたから」


 観念したのか、エステラが恥ずかしそうにそう言って、下を向いてモジモジしている。


 ……うわぁ。女の子っぽい服装をすれば、きっと可愛いのになぁ。


 その後、ちょっとした消毒と治療をして、レンが父親たちに知らせて事情を説明してくれたのだとか。


 説明を受けたお父さんは「大丈夫だ。狩りの訓練とでも言っておけば、こんな小さな傷は誤魔化せるからな! 任せとけ」と、言っていたので任せたらしい。


 その結果、お父さん曰く、バレていないらしい。


 ……いや、それは絶対バレてるよね。


 お母さんは、ほんわかしているけれど勘は鋭い。

 お父さんの嘘なんて簡単に見抜くはずだ。なにより、お父さんは、お母さんに嘘が付けない。すぐ顔に出る。


 ……ははぁ~ん、それでお姉ちゃんは、レンさんに恩義でも感じているのかな? 意識しているわけじゃなさそうだけど、歳が離れているからってことでもなさそうだし。お姉ちゃんって、誠実というか、律儀というか……。


 教会や孤児院の話も色々聞けた。

 それに、最近は狩人たちや酒場帰りの常連が、差し入れをもってくることもあるそうだ。


 ……最後の方は、レンさん目当てじゃ?


 それにしても、収穫の多い話だった。

 お姉ちゃんの知らない一面も知れ、レンさんとも知り合えた。

 初日の外出にしては、上出来じゃないだろうか。


 三の鐘がそろそろ鳴ろうかという時間になったので、レンと別れの挨拶を交わし、わたしたちは帰宅するために教会を出る。


 教会の門へ続く石畳を数えながら歩いていると、エステラがふいに足を止めて後ろを振り返った。


 釣られてわたしも振り返ると、教会の扉の前には、こちらを見送るレンの姿が。


 軽く頭を下げ小さく手を振るレンに、エステラと二人で大きく手を振り返した。


 ……またね。レンさん。


 気持ちが通じたのか、ニコリと微笑んだレンの顔が印象的だった。



「さぁ、帰るよ。三の鐘が鳴りそうだから、急ごうっ!」

「うん。それにしてもレンさんって、話しやすくて優しい人だったね。それに、とっても綺麗だった」

「そうでしょ! 私も見習わないと!」


 ……えーっと、何を見習うんだろう。 清楚っぽいところ? 綺麗なとこ? 真っ直ぐでキラキラなお姉ちゃんは、そのままでいいと思うよ。



 ◇ ◆ ◇



 教会を出ると、エステラは再びわたしの手を握って、帰る道の説明をしながら歩き始めた。


 教会から家までは、なかなか道が複雑だった。

 指をさしながら、「ここを曲がって」とか「そこを左に」と道幅も狭く、大人一人分くらいの狭い道もある。


 エステラの言葉を受け、わたしは必死に頭の中に簡単な地図を描いていく。


 ……この辺からだと北門の頭の部分がちょっと見える。あれを目指せば戻れるのね。頭の中にメモメモ……。


 迷路のような細道を抜けると、大通り程ではないけれど、少し道幅が広い通りが見えてきた。

 けれど、バタバタと通りの方から複数の足音が近付いてくる。


 わたしたちは、思わず足を止めた。


 通りを勢いよく横切って行ったのは三人の少年たち。

 しかし、少年たちは急に向きを反転すると、今度はこちらへまっすぐ走って来た。


 ……えっ、なんでこっちに来るの? 絡まれる? ……どうしよう? あの子、目つきがちょっと怖いよ。


 赤髪で目つきの鋭い少年と、暗い金髪で細身のやや背の高い少年、丸っこい体型をした茶髪の少年が近寄ってくる。


 握っていた手を離し、エステラがわたしを庇うように一歩前へ出た。


 三人組の少年たちは荒くなった呼吸を少し整えると、赤い髪の少年がその鋭い目でエステラを見た。


「ふぅ……よお。やっぱり、エステラだったか」

「ラウル、何してんの? ポールにマルコも……さぼり? 怒られるわよ?」


 赤い髪の少年はラウル、暗い金髪の子がポールで、茶髪で丸っこいのがマルコ。

 この三人組は、どうやらエステラの知り合いのようだ。


「ちげぇよ。それがさ、俺も今日知ったんだけど……」


 ラウルが語ったのは、ちょっとした噂話。

 冬支度で薪の値段が上がり、それをいいことに、ぼったくり価格で旅人相手に薪を売る悪ガキがいるらしい。


 そして先日、その子が売った相手が商人の子供だったらしく、ちょっとした問題になっているそうだ。 


「ちょっとならよぉ、騙される方が悪い。旅人相手なら今頃は他の街に向かってるはずだから、まぁ大丈夫だ。でも、商人の子供相手にやっちゃマズイだろ。絶対そいつの親にすぐバレるさ。しかも、聞き込みしてみりゃ、旅人相手にも複数回やってるようだから、通報されりゃ警備に捕まるぜ。適正価格の倍以上の値段は違反に該当するかもしれねぇのに……」


 顔をしかめて一息にラウルが説明し終えると、両隣の二人も大きく頷く。


「ふーん、で、そいつを捕まえるわけ? 捕まえてどうするの?」

「まずは金を返して、適正価格でちゃんと売れって説教してやる」


 どうだと言わんばかりに自信に満ちた顔で、エステラの疑問にラウルが答えた。

 だが、エステラは納得している様子はなく、再び三人を見渡して尋ねた。


「そんな悪ガキ、街の警備に捕まえてもらうのが、一番なんじゃない? あんたたちが走り回る必要がどこにあるの? せいぜい、一年ぐらいの奉仕じゃない?」

「そうなんだけどよ…………」


 少し俯いてラウルが口ごもる。


「ラウル、エステラにはちゃんと説明しなきゃ。……マルコもいいよな?」

「……ああ、うん」


 横にいたポールが口を開き、マルコに同意を求める。渋々といった感じで、マルコも頷く。


「何かあったの? ポール」

「実はな、集めた話から悪ガキってのがさ、アイナらしいんだよ。レンさんが悲しい顔すんのはさ……見たくなくて、警備に伝わる前に解決したくて……」

「はぁ? アイナがなんで……。もうっ! もっと早く言いなさいよ! この三馬鹿!」


 ……ぷっ……三馬鹿って。なんだか、お姉ちゃんって裏山のガキ大将みたい。


 なんだかんだで、仲が良さそうだ。

 わたしそっちのけで作戦会議をしている四人を見ると、何かを言い合いながら、誰もが真剣な表情だった。


 ……謝れば済む話……ってわけじゃないのかな?


 騙すのは悪いことだと思う。だけど、この世界の常識に疎いわたしには、それ以上のことはわからない。


 ……レンさんの関係者なのかな? レンさんの悲しい顔は見たくない……か。それはわかる気がするよ。



 わたしは特にすることがないので、近くの木箱に腰掛けて空を見上げていると、天馬が空を駆けて行った。


 ……行き先はどこだろう? さっきの帰りかな? そうだっ! 天馬を使えば宅配便とか……うん。これも候補に入れよう。ふふふ……お金の匂いがプンプンする。


「……今さらだけど、そっちのちっこいのは誰だ?」


 天馬がお金を運んでくる妄想をしていたら、作戦会議が終わったらしい。

 ラウルが顔を横に向けてわたしを見た。「そういえば」と、ポールとマルコもわたしに注目する。


 急に三人の興味がわたしに向いたことで、思わずビクっと体が震えた。

 ちょっとびっくりした様子が怯えた様子に見えたのか、すぐにエステラが三人の視線を遮るように動いた。


「わたしの妹よ。手出したら承知しないわよ?」

「……ってことは、ノックスの妹なんだろ?」

「当たり前よ」


 三人は「うげぇっ」と青ざめた。

 ラウルが「何もしねぇよ」とぶるぶる首を横に振り、ポールとマルコも「うん。うん」と大きく首を縦に振った。


……あの反応はなんだろう? うーん、怖がっているようにも見えるし、お兄ちゃん……何をしたの? 


「お……俺はラウルだ。よろしくな、ちっこい妹。こっちがポールで、そっちがマルコだ」


 ラウルに続いてポールが「よろしく、ちっこい妹」と軽く手を上げる。

 続いて「よろしくね~」と、マルコが軽く頭を下げたので、わたしも「うん。よろしくね」と頷き、挨拶を返す。


「んじゃ、後でなエステラ。アイナが稼いだ金を使う前に捕まえねぇと!」


 ラウルが意気込み、ポールとマルコに呼びかける。


 わたしたちが通ってきた道とは別の道を指差し、「エステラたちが会ってないなら、こっちだっ!」と、ラウルたちは再び走り出した。


 別れの挨拶を終え、三人組が教会とは別の方角へ慌ただしく走って行ったのを見送った直後、カーン、カーン、カーンと三の鐘が聞こえた。


 エステラの「あっ、まずい」という呟きに、家を出る前にお母さんと交わした言葉を思い出す。


 三の鐘が鳴る前には間違いなく帰れる距離だったはずだ。

 お母さんとも、そのような約束をしていた。


 ……うわぁぁ! 初日で約束破るとか、これは不味いのでは?


 玄関で仁王立ちしているお母さんが、わたしは想像できてしまった……。

 チラリと横目で見れば、エステラの顔がちょっと青ざめている。


 ……大丈夫だよお姉ちゃん。わたしも一緒に謝るから。たぶん、許してくれるはず。


 エステラの表情には焦りが見え、わたしは嫌な汗をかきながら家路を急ぐ。


 ふぅっふぅっと、吐く息が白い。

 冬空を見上げれば、雲の灰色が不安を煽る。

 早足になって急ぐわたしの顔に、冷たい風が吹きつけた。


 ……寒っ! なんだか不安になってきたぞ。いきなり外出禁止になったら、どうしよう……。







ここまで拙い文を読んでいただきありがとうございます!


「面白かったなぁ」

「続きはどうなるんだろう?」

「次も読みたい」

「つまらない」


と思いましたら

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面白かったら星5つ。つまらなかったら星1つ。正直な気持ちでかまいません。

参考にし、作品に生かそうと思っております。


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