24話 出会いはいつも突然に ~浮かぶ球体の真実~
いつ眠ったのか憶えていない。
気がついたらこの空間にいた。
いつもの不思議現象の空間だ。
ただ、普段と様子が違う。
わたしの周りに浮かぶ球体たちが、やたらと点滅を繰り返している。
さらに、なんだか体が重く怠い。
今までは、このような激しい点滅や、体の違和感はなかったのに……。
……寝る前は何してたっけ? 洗濯をして、洗剤の話をして鍛冶場へ……う~ん、その後、帰宅して夕食を……食べてないような?
正直、記憶が曖昧だ。
鍛冶場の応接室に通されて、お茶をもらったところまではわかるのだが、そこから先がふんわりしている。
……夕食を食べた記憶がないんだよなぁ。話し合いが終わって……帰り道で、やたら急いでる馬車を見て――っ!
思い出した。
よほど体調が悪かったのか、あの時、朦朧としていたせいか、今の今まで思い出せないなんて。
エステラやラウルの抵抗むなしく、突如現れた馬車の男たちに攫われたのだ。
……お姉ちゃん怪我してないかな? ラウルが間に合ったと思うけど……。
エステラのことも心配だが、今は自分の置かれた状況も大変だ。
これからどこへ連れて行かれるのか?
生きていられるのか?
逃げることは可能なのか?
正直、全く予測できない。
判断材料が無いのでどうしようもないが。
……良くても奴隷として売り飛ばされて、命だけは助かるってところかなぁ……ラノベでよくある話だけど、どうしようこれ。
不思議現象のおかげで落ち着いて整理できてはいるが、もしこれが現在進行系だったら、焦って冷静な判断もできないだろう。
それにしてもと思う。
待てども待てども、前世の記憶が流れ込んでこない。
周りに浮かぶ球体が、やたらと点滅しているのも、何かを伝えようとしているのだろうか?
……いつもと様子が、う~ん。
「ねぇ、もしかして何か伝えたいの?」
こうやって不思議空間で、球体にちゃんと話しかけたのは初めてかもしれない。
そもそも、浮かぶ球体と話せるなどとは思ってはいないが、今回は様子が違うので話しかけてみたくなった。
もちろん、返事を期待したわけじゃない。
ただ、心細くて反応が欲しかっただけかもしれない。
……まぁ、何も起き――って、おやっ?
意思を持つかのように、球体たちが、わたしの周りに集まってきた。
明らかに、わたしの言葉に反応しているようだった。
どうにかして、球体たちと意思疎通をしたい。
「え~っと、『はい』なら青、『いいえ』なら赤ってできる?」
なんと球体が青色に変わった。
わたしの言葉を理解しているようだ。
これは新発見だ。
とはいえ、何を聞けばいいのだろう。
まずは相手の素性だろうか。
とりあえず、だったらいいなと頭に浮かんだ質問を投げかけてみる。
「もしかして、妖怪さん……だったりします?」
……おぉぉぉっ!
青色だったり、赤色だったりと妖怪以外もいるようだが、妖怪という存在に初めて出会えた。
夢にまで見た妖怪たちとのご対面がこんな形とは、なんともいえない感じだが、ジワジワ胸が熱くなる。
嬉しくて駆け回りたいのに、今は体が動かないのがなんとも歯痒い。
……くぅぅぅ~。これはテンション爆上がりだよぉぉっ!
「じゃ、じゃぁ、この中に妖精さんっていますか?」
……マジですか。
しかし、なんということだろうか、自分の置かれた状況はそっちのけで、自身の頬が緩むのがわかる程、楽しくなってきてしまった。
「え~っと、神様ですか?」
わたしは、ほっと胸を撫で下ろした。
流石に神様までいたら、腰を抜かしていたかもしれない。
「精霊さんはいますか?」
全て青色。
みんな精霊だったようだ。
妖精や妖怪も、この世界では精霊の一種なのだろうか。
詳細はどうであれ、本人たちが精霊と言っているので、精霊ということにしておこう。
「みんなとは、この空間以外でも会えるの?」
どうやら空間外でも存在しているらしい。
ということは、外の出来事も把握できるのだろうか。
「お姉ちゃんは無事か、わかる? 無事なら青で」
……青色。よかった。お姉ちゃんは無事みたい。
わたしは、大きく息を吐いて胸をなでおろす。
テンションが上がってしまい色々と質問したが、結局のところ何を伝えたいのだろうか。
一方通行の質問にも限界がある。
わたしが思い当たらなければ、相手の意図がわからない。
夢中になりすぎて、肝心な質問ができていない。
どんどん自分の身体や球体たちも透けてきている。
そろそろ、現実のわたしが目を覚ましてしまうかもしれない。
「もしかして、もう時間ない?」
……やっば、青色じゃん。
焦れば焦る程、何を質問すればいいのか、わからなくなってくる。
このままだと、ただ球体たちが精霊だったことしかわからない。
……全然わかんない。どうしよう、時間が――もうこれしかないか。
「お願いします、助けてくださいっ!」
どうやら、わたしの全力のお願いは通じたようだった。
消えゆく間際、球体たちが激しく青色に点滅していた。
もう、信じて助けを待つとしよう。
……五歳児にできることなんて限られてるし、生き延びることだけを考えよう。
この空間のおかげで、気持ちと考えを整理ができた。
これがなかったら、目覚めてすぐパニックになっていただろう。
徐々に、ふわふわとした感覚が薄れていく。
……そろそろ、かな? あぁ、緊張してきた。でも、やるしかないっ!




